-きみに詠む物語-
健次は、同じクラスの
春美のことが羨ましかった。
春美は誰とでもすぐに仲良くなり、
いつでも如才なく立ちまわった。
健次は、いつの間にか
自分にはない彼女の明るさに
惹かれていた。
健次と春美は仲が良かったが、
春美は学業が優秀で、
健次は、近い将来
彼女が自分とは住む世界が
違う人間になってしまうのではないか
という危惧も抱いていた。
将来の目標も定まらず
鬱々とした日々を送っていた
健次には、
とても彼女をよろこばせる自信が
湧かず、
二人とも卒業を迎えた。
数年後に
再会もする。
春美は変わらず
魅力的だった。
「また会おう」
そう言って
10年の月日が経過した。
もう会うこともない、、
そう思った健次は
携帯電話の履歴を
消してもよかった。
しかし、
消すことができなかった。
自分の中で
彼女の存在が
なくなってしまうことが
嫌だったのである。
ひょんなことから
久しぶりに連絡をとった。
春美は結婚し、
幸せな家庭を築いていることがわかった。
健次は、彼女が幸せな日々を
送っていることに安堵したが、
同時にやりきれなさも残った。
春美と出会って
もう何年もの時が経つが、
春美以上の女性に
健次はまだ
会うことができていない。
以上