-遁世者 2-
男は市場で
買い物をしていた。
すると、
どこかで見たことがある
若い女性の姿が目に付いた。
男は、
何かに引かれるように
女性に話しかけた。
「あのー、、
いつかどこかの教会で
お会いしたことはありませんか」
その若い女性は
いくぶん
おどろいたようだったが、
こう返した。
「いえ、、
あなたにお目にかかったことは
ないと思いますが」
それを聞いた男は、
残念そうに言った。
「そうですか」
若い女性は、こうも付け加えた。
「ただ、、
私の双子の妹が教会にいる
という話は聞いたことがあります」
それを聞いた男は驚き、
すぐさまこう尋ねた。
「どこの教会ですか」
若い女性は、こう答えた。
「たしか、Hという街の川の近くだったとか」
若い女性によると、
自分たちの父親は
病で早くに亡くなり、
国の経済事情もあって
双子のそれぞれが
離れて暮らさなければならない
状況があったようである。
男は、こう応える。
「あなたの妹さんとは
以前に会ったことがあると感じます。
あなたと非常によく似ていらっしゃるので。
あなた方のお母様は、
いまどちらにいらっしゃるのですか」
若い女性は、
話の続きとして、
母親に資力がなく
双子2人は育てられなかったこと、
姉である自分は
早くに自立する必要があったこと
などを話してくれた。
そしておわりに
「これが若い頃の母です」
と言って、
1枚の写真を見せてくれた。
それを見た男は、
目を見開いた。
以前
自分が困窮していた時期に、
ただでパンを手渡してくれた
年配の女性にとてもよく似ていたのだ。
男は過去に
教会へ足を運び、
いま目の前にいる若い女性の
妹だと思われる人と
やりとりしたことを思い出し、
少し頭がくらくらとした。
「私は、、
あなたのお母様にも
会ったことがあるかもしれない」
このように男が話すと、
若い女性は、
「えっ・・・」
と言って
ひどくおどろいていたようだったが、
その母親についてこうも続けた。
母は若い時に
とある神父との間に子供を授かるが、
その子の存在を隠す必要があったため
なくなく親類の家に託したのだという。
自分たち双子の姉妹が生まれたのは、
それから10年ほど経ってからのことであると。
それを聞いた男は、
実の母親を
自身の出産時になくし、
その後親戚の家で
世話になってきた
という境遇もあり、
近いものを感じた。
若い女性は、
こうも言ってくれた。
「あなたとは初めてお会いしましたが、
どこかで会っているような気もします」
男も、
この若い女性が
どこか自分と同じ匂いがするのを
肌で感じていた。
「また、どこかでお会いしましょう」
話の最後にそう言って、
お互いに離れていった。
男が
足に履いている
手縫いの革靴も、
そろそろ
くたびれてきたところである。
以上
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