日記9日目
冷たい風が時折ごうっと吹きつけて、僕の身体から熱をさらっていく。先月まで外灯に集っていた虫達はいつの間にかいなくなっていて、あれほど暑苦しかった明かりが今は寒々しく目にささる。色の褪せはじめた木の葉にこれからの季節を想像してみたりする。
待ちゆく人たちの服の袖は徐々にのびだして、それに反比例するように恋人達の距離が縮まっていく。淀みのない夕空に覆われた街は季節の変わり目を喜んでいるようにみえる。上着をなくした樹木の根本には、赤褐色の落ち葉達がまるで毛布のようにかぶさっている。春夏と世界を彩っていた草花の役目をネオンの光が受け継いでいく。ホットコーヒーの香ばしい匂いが溢れるファーストフード店。白い息にはしゃぐ小学生。
鈴虫の声を聞きながらそんな想像にふける僕の頬を、冷たい風が、ぴしゃり、と叩く。