6日目

夜道を歩く。どこに向かうでもなく、ひたすら歩く。大きめの草履がペタペタと音を立てる。遠くで賑やかな声がする。明かりはなく、街路樹の青い香りが風に拐われていく。煙草を取り出そうとすると、手の甲がポケットに引っかかって、おもわず舌打ちを鳴らしてしまった。この頃、些細なことですぐにいらいらしてしまう。なんてちっぽけな男だと情けなくなる。立ちすくみそうになる足の筋肉にムチを打つように、ひたすら歩いた。
2つ目の街灯を右に折れると、下り坂にぶつかる。灯に吸い寄せられた虫たちがばちばちと羽を弾く。プラスチックのカバーに覆われた人工物の光に、なぜこうも惹かれていくのだろうか。そこには何もないはずなのに、そんなに勇んで、何を求めているのだろうか。それを本能と呼ぶにはあまりに残酷な仕様ではないか。虫たちは知らないのだ。DNAに埋め込まれたものだけを頼りに生きるしかないのだ。全ての活動に、快楽や幸福が追いついていないのだ。頭上で起きている出来事をそんなふうに考えていると、心がコンクリートに埋まっていくような感覚だった。お酒が欲しいと思った。それはやはり、ちっぽけな男の考えであった。寂しかった。のどが渇いた。ねっとりとした下水の臭いが、悪質な粘り気で鼻腔を毀した。

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