5日目
今日も日中は何もすることがなく、夜になって公園にいった。
夜中の公園は街灯が消えて真っ暗だ。階段を踏み外さないように、ゆっくり降りていく。いつものベンチには若いカップルが並んで座っていた。もちろんあたりは真っ暗なので顔は見えないが、声で分かった。顔を見なくても声ひとつでおおよその年齢は分かる。少し甲高い二十代。落ち着きのある三十代。すこしざらざらした四十代。歳相応の周波数というものがあるのだろうか。声って不思議だ。
結局そのベンチは諦めて、グラウンド側のベンチに腰を下ろす。買ってきた缶チューハイを開けると、カシュ、という涼し気な音に心が落ち着いた。少し大きめのひとくちをぐいっと流し込んで、あたりを見回した。広いグラウンドの土は白っぽくしっとりとしていて、奥の駐車場では自販機がひっそりと光っていた。目線を上げると、遠くの方には電気の消えた一軒家や、三階だけライトを点けたアパートが、眠っているように佇んでいる。星は一つしか見えず、遠くの大通りの明かりが染み込んだ空は紫がかっていて、こちら側に近づくにつれ、徐々に藍色へと綺麗なグラデーションをつくっていた。
鼻から大きく息を吸うと、空気は優しく湿っていて、夜露を含んだ芝生の匂いがゆっくりと胸を満たしていった。そこら中では虫がころころと鳴いていて、蚊に刺された足首がむずがゆかった。公園はもう、夏を始めだしていた。
朝起きたら蝉が鳴いていないだろうか。毛布がベッドの脇に放り投げられていないだろうか。そしたら僕はきっと嬉しくなって、意気揚々とエアコンの掃除をするだろう。わくわくしながら団扇を探すだろう。そうだ、今年の夏は花火をしよう。そんな妄想に耽りながら、煙草にそっと火を点けた。