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静かだった「NFT.NYC 2023」、だが周辺ではさまざまなドラマが

「NFT.NYC 2023」はマンハッタンに文字通り“熱気”をもたらした。4月12日〜14日の3日間、4月中旬としては異例の華氏80〜90度(摂氏27℃〜32℃)の暑さのなか、NFT.NYC 2023が開催された。

主要プログラムは、マンハッタン西部にあるニューヨーク最大規模のコンベンションセンター「ジャビッツ・センター(Javits Center)」で行われ、6000人を超える参加者が集まった。

レイヤー2ブロックチェーンのイミュータブル(Immutable)、NFTマーケットプレイスのオープンシー(OpenSea)、アマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services)などがスポンサーとなり、他にもイベントパートナーがギャラリーやメタバースの展示、ネットワーキングラウンジなどを開催した。

寂しいメイン会場

昨年、タイムズスクエアの7会場で開催されたNFT.NYC 2022の分散型のアプローチとは異なり、今年は1会場で行われたが、3日間、8つのステージにのべ1300人が登壇したにもかかわらず、会場にはあまり人がいないように思えた。

NFTの規制、知的財産(IP)を活用したゲーム、ファッション、健康、メタバースなどのトピックが取り上げられ、イベントの内容自体は成熟したように感じられた。

冷房の効いた室内からハドソン川を見下ろす屋上に出ると、太陽の光が眩しかったが、その熱気は建物内で行われているイベントには届いていなかったようだ。

だが、熱気は本物だった。NFT.NYC 2023の熱気はサイドイベントから生まれていた。

サイドイベントから生まれるドラマ

アニモカブランズ(Animoca Brands)の共同創業者ヤット・シウ(Yat Siu)氏は、NFT.NYC自体は参加者が少なかったかもしれないが、サイドイベントは活気に溢れていたと同社が主催したイベント直後のインタビューでCoinDeskに語った。

「こうしたイベントはすべて、人々を結びつけるものだ」とシウ氏。

「レストランやバーなど、さまざまな場所で実際に盛り上がり、他の人たちとのつながりが生まれる。それは本当にマジックだと思う」

確かにカンファレンスの本当の価値は、過去もそうだったように、ニューヨーク市内の各地で行われるイベントにあるのかもしれない。NFT.NYCは、街中のリアルなパーティーや、オンラインでの活動、ツイッターなどのサイドイベントから生まれるドラマも特徴だった。

「NFT100」からある人物が削除

NFTメディアのNFT Nowが4月11日に発表した「NFT100」は、NFT分野の代表的人物を表彰するリストで、取り上げられたクリエイター、コレクター、ビルダー、インフルエンサーにとって喜ばしいものだ。

リストに選ばれた人たちやゲストたちは、ロックフェラー・センターのレインボー・ルームで開催された「NFT100祝賀会」に出席。CoinDeskも招待された。

ドリンクが運ばれ、アーティストやエグゼクティブが集まり、NFT NowのCEO兼編集長、Matt Medved(マット・メドベド)氏がWeb3にとって厳しい1年を戦い抜いた出席者の粘り強さを称えると、会場から歓声が上がった。

だがその後、1日も経たないうちに、NFT Nowは編集ガイドラインへの違反を理由にリストから1名を削除すると発表した。

「私たちはこの分野のポジティブな力であることを目指し、ハラスメントを助長しないことに取り組んでいるため、編集ガイドラインに従って、ここでこの人物の名前をあげてはいない。興味をお持ちの方は、サイトをご覧になれば、誰が、なぜ削除されたかを知ることができます」とNFT Nowは続けてツイートしている。

サイトを見ると、その人物はメディア企業Beyond the Interviewの創業者兼CEO、ニコール・ベンハム(Nicole Benham)氏であることがわかる。同氏の写真は削除され、名前の後に「redacted(削除済み)」とある。

祝賀会の翌日の12日、ベンハム氏はポンプ・アンド・ダンプ(Pump and Dump:価格の吊り上げと売り抜け)と思われるものに関与したことを説明するツイートを投稿した。

経緯を振り返ると、11日午後、ベンハム氏はドージコイン(DOGE)の共同創設者ビリー・マーカス(Billy Markus)氏が作成したNFTコレクション、Blocky Doge 3の無料ミントを取り上げた。

同氏はツイッターでこのコレクションを大々的にアピールしつつ、所有していた250個のBlocky Doge 3 NFTのうち220個を売却。オープンシーのデータによると、コレクションの平均価格は24時間で半分まで下落した。

その後、「私が管理していたウォレットにミスがあった」「この24時間の経緯はクールではなかったので、状況を是正するために最善を尽くしている」と同氏はツイートしている。

だが同氏は行動だけでなく、謝罪にまつわる言葉、具体的には「sorry」という言葉を使わなかったことでもフォロワーから批判された。

一方、人気NFTコレクション「Deadfellaz」のクリエーターであるBetty氏は、NFT Nowがベンハム氏だけを削除したことは「差別的」で、リストに載っている多くの人が同じようなことを行っているとツイートした。

さらに続けて、「その行動が正しいとか、正当化されるとか、そういうことを言っているのではない。もし適用されるなら、全員に適用してほしいと言っている」と述べた。

サザビーズ、批判を受けて中断したオークションを再開

4月13日、批判を受けて中断されていたサザビーズのNFTオークション「Glitch: Beyond Binary」の作品公開がNFT.NYCの期間中にようやく再開された。

当初、作品は3月末に公開されたが、公開直後に作品の多様性の欠如や女性アーティストの作品が含まれていないことなどで批判を集め、公開が中断されていた。

「表現は重要。包括性は重要」と抗議して作品を取り下げたNFTアーティストのパトリック・アマドン(Patrick Amadon)氏はその際、ツイートしている。

「このムーブメントを正しく構築することはきわめて重要。私たちが今行っていることは、今の私たちのコミュニティに影響を与えるだけでなく、私たちが残したものを受け継ぐ何千、何万の未来のアーティストに影響を与える」

オークションは4月19日から開始される予定。

クジラの大量売却でBACYが下落

人気NFTコレクションを手がけるユガラボ(Yuga Labs)が、同社を代表する「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」の保有者向け限定イベント「Ape Fest」を、今年はNFT.NYCに合わせて開催しなかったことは良かったのかもしれない。

4月13日、BAYCのフロア価格は55.59イーサリアム(ETH)、約11万6000ドル(約1550万円)という5カ月ぶりの安値まで下落した。

下落は、BAYCのクジラ(大口保有者)として知られるfranklinisbored氏がコレクションの大半を売却したとツイートした後に起きた。オープンシーによると、同氏は少なくとも37個のBACYを売却している。

Gm. Due to an unfortunate IRL issue, I have had to sell off a lot of BAYC apes to pay off BendDAO loans while the liquidity was available. I won’t get involved in NFT trading/twitter for a while, and will just focus on my private life for the time being with my remaining apes.

— Franklin (@franklinisbored) April 13, 2023

同氏は「流動性が手に入るうちに、BendDAOのローンを返済するために多くのBAYCを売却しなければならなかった」とツイート。

さらに別のツイートで、約2000ETH(約420万ドル、約5億6000万円)の投資でラグプル(資金持ち逃げ)の被害に遭ったことを明かした。

I got rug pulled on an investment I put almost 2000 ETH into, thinking it was credible due to who else invested (not naming anyone for privacy reasons). Someone used our $$ as a casino gambling Ponzi and flushed it down the drain. Please learn any lessons possible from this.

— Franklin (@franklinisbored) April 13, 2023

「この件から可能な限りの教訓を学んでほしい」とfranklinisbored氏は書いている。

Web3ゲーム会社Liithosのデザインディレクターで、BAYCの保有者でもあるアダム・クレッグ(Adam Clegg)氏は、NFT市場はクジラがこれほど大きな取引をすることにまだ十分に慣れていないため、クジラ1人が(大量に)売却するとコレクションの価値が急激に下がってしまうとCoinDeskに語った。

「伝統的な金融、あるいはビットコインやイーサリアムのような大規模な暗号資産なら、少数の個人投資家がこのように市場全体を揺るがすことはできない。NFTに投資している時点で、大きなリスクと安全を守る個人的な責任を負っていることを理解する必要があると思う」

当記事執筆時点、BACYのフロア価格は54.91ETHに下落している。

「暗号資産の冬」、だがNFTはまだ暖かい

「NFT.NYC 2022」後の10カ月は、暗号資産にとってこれ以上ないほど厳しい時期だった。

暗号資産レンディングを手がけるセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)やボイジャー・デジタル(Voyager Digital)の破綻、大手取引所FTXの崩壊、そして直近の銀行危機──シグネチャー銀行(Signature Bank)、シルバーゲート銀行(Silvergate Bank)、シリコンバレー銀行(Silicon Valley Bank)の破綻など、取引を低迷させるさまざまな出来事が続いた。

さらに規制当局の監視が厳しくなり、一般的な経済の不確実性も加わって、2022年とは明らかに異なる雰囲気が漂っていた。

昨年はETHが急落した直後だったが、参加者のエネルギーは依然として高かった。NFTコレクション「Pudgy Penguin」や「Cool Cats」の保有者は限定パーティーに参加し、マーケットプレイスのマジックエデン(Magic Eden)はヨットパーティーを、ユガラボは初の「Ape Fest」を開催した。World of Women NFTプロジェクトが主催したイベントにはマドンナが出演した。

今年のサイドイベントは、昨年に比べると豪華ではなかったが、それでもニューヨーク市内各地で開催されたイベントには多くの参加者が集まった。

著名NFTアーティストが主催したイベントをはじめ、アニモカブランズ(Animoca Brands)とサンドボックス(Sandbox)のパーティーにはDJのスティーブ・アオキが登場した。

NFT.NYC 2023では、Web3への意気込みや計画を発表するパーティーがあちこちで盛んに開催されたが、注目すべきドラマやお楽しみは例年通り、主にメイン会場から離れた場所で起きていたようだ。

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