『12時17分、土浦行き』#3
Yさん(当時25歳・女性)
あの電車には新橋から乗車しました。
こんなこと言うのもアレなんですけど、この取材が終わったあとであなたは私のこと覚えていられそうですか?
存在感薄いって自覚もあります。小さいころからずっとそうでしたから。
こないだ小学校のクラス会に行ったんですけど、私のことを覚えていてくれたのはたった一人だけでした。その子は私と同姓同名なんですよ。
いくつかクラスがあったら同じクラスに同姓同名ってあり得ないんでしょうけど、うちの学校は一学年で1クラスだけだったんで。
みんなの記憶に残らないっていうのは、、そうですね、透明人間になった気分ですね。
この電車の乗客の方々も、私の存在より私の持ってた大きな荷物しか記憶に残っていないと思います。
でも、悪いことばかりじゃないんです。これはこれで居心地がよかったりもしますから。
でも、私という存在を誰かに強く記憶して欲しいって心のどこかで願っていたんだと思います。だから、あの人にかけてもらった言葉が響いたんだと思います。
私、不倫してるんです。いけないことだなんてわかっています。
あの電車には新橋から乗車しました。
私、不倫してるんです。
いけないことだなんていうのはわかっています。
ハッピーエンドは訪れないことなんて言われなくてもわかっています。
奥さんやお子さんを傷つけてるのもわかってます。
でも最終的にそこは安田美沙子さんみたいに元サヤに収まれたりするじゃないですか。それでいいとも思ってますし。
よくないですか? 私がそれを受け入れてたら。
やっぱりダメなんですかね。
彼は、「キミとのセックスが忘れられない」って言ってくれたんです。
誰の記憶にも残らない私に、忘れられないって言ってくれたんです。
私はその彼から託された荷物を膝にのせて、あの電車に乗っていました。