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つるの恩返し

日本の民話『鶴の恩返し』を、2020年9月21日現在のお話として
作ってみました。 音声でもお聴き頂けます。

ある所に、貧しくとも心の優しい女が住んでいました。
ある日、ハローワークに出かけた帰りに、外国人とおぼしき人が
鳥類天然記念物に指定されている丹頂ツルを密猟しようとしている所に
遭遇しました。

鶴の恩返し1

可愛そうに思った女は、なけなしの全財産を外国人に渡し
ツルを買い取ると、そのまま空に逃がしてやりました。 
ツルは嬉しそうに飛んで行きました。

鶴の恩返し3


その夜、女のアパートのドアを、いつもの借金取りの追い込みとは違う、
コンコンと優しくノックする音が聞こえました。

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ドアを開けると、端正な顔をした男が立っていました。
男は、菅新内閣の閣僚就任会見をどうしても見たいのですが、
自宅にはテレビが無く、どうか見せてもらえないでしょうかと
女に懇願しました。
政治への関心の深さに感銘を受けた女は、男を部屋に招き入れ
テレビを見せてあげることにしました。

会見は夜の11時頃から始まり、20番目の最後を飾る
井上信治新万博担当大臣の会見が終わったときには
午前2時近くになっていました。
女は、こんな時間に男を帰すのは不憫に思い、男に泊まってはどうかと
提案しました。
好意によって泊めてもらうことになった男は、女の部屋の隅に
作りかけの日の丸があるのに気づきました。

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女は、東京オリンピックの応援用の日の丸を作り生計を立てようと
していましたが、一年延期となった今、生地や糸を買うお金すら
底を尽きたのだと身の上を話しました。

男は、泊めてもらうお礼に日の丸を織りましょうと言うと、
「織り上げるまで、決して覗かないで下さい」
と女に告げ襖を閉じました。

鶴の恩返し4

翌朝、女が目を覚ますと襖は開いていて、昨晩より随分とやつれた
表情をした男がこちらを見て座っていました。
男は泊めてもらった礼を述べてから、織り上げたものを女に手渡しました。女は、渡された日の丸を見てとても驚きました。 
なんとその日の丸は、白地の部分が緑色で、独特の香りのする
植物のような繊維で織られていて、赤の丸い部分は、
生臭い染料のようなもので染められていました。

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女がこの緑の日の丸について尋ねると、
男は、これはバングラデシュの国旗だと答えました。
さらに、アジアの最貧国がバングラデシュ なのだと続けました。

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女は、自分がいくら日本で貧しい暮らしをしていたとしても、
バングラデシュ の貧しさに比べたらどれだけ恵まれてるか
容易に想像ができました。
日本とバングラデシュの 、白と緑の二つの日の丸に強烈な因果を
感じた女は、このとき、自分がやるべきこと、起こすべき行動に
気づきました。
そして、これからの人生を、アジアの貧困問題に捧げる決意をしました。
男は、その活動のシンボルとなる国旗を織りましょうと言うと、
再び「織り上げるまで、決して覗かないで下さい」 と女に告げて
襖を閉めました。

鶴の恩返し4

女は、気になって気になって仕方ありませんでした。 
バングラデシュ の国旗が何の繊維で織られて、
何の染料で染められているのか。
好奇心を抑えられなくなった女は、
約束を破り襖を少し開けて中を覗いてしまいました。

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すると、男はパクチーを繊維状にして緑の生地を織り、
赤い部分は、自分の手首を切り、そこから滴る血で染め抜いていたのです。女は、そっと襖を閉じました。

しばらくすると襖が開き、
見るからに生気を失った表情の男が出てきました。
「私は、あなたに助けられた丹頂ツルでございます。
ご恩をお返ししたいと思い、人間の男の姿となりやって参りました。
ですが、もうお別れでございます」
そう言うと、男は女に織り上げたものを手渡しました。
それは、半分が日本で、もう半分がバングラデシュの日の丸で作られた
国旗でした。

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「僕は今後とも差別なんてしませんので」
そう言ったかと思うと、
男はたちまち一羽のツルとなって空に舞い上がりました。

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国旗の隅には、『剛士』と名前が記されていました。
女は、空高く飛び立ったツルに向かって呼びかけました。
「ありがとう、ツルの剛士」

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女は現在、NPO団体『TSURU』を立ち上げ、
アジアの貧困や差別などの問題解決のため、精力的に活動しています。

(構成/金山寿甲)




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