「劇画の日」は「何時」「誰が」制定したのか?
由来しか書かれてない記念日
7月24日は「劇画の日」で、それは漫画雑誌「ガロ」が1964年7月24日に創刊したことを由来します。
日本初の青年雑誌『月刊漫画ガロ』は、それまで貸本漫画の出版などで知られていた編集者の長井勝一により1964年7月24日に創刊された(その後7月24日は「劇画の日」と呼ばれるようになる)。
更新日時: 2015年7月27日 06:02 (UTC)
版指定URI: https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%AC%E3%83%AD_(%E9%9B%91%E8%AA%8C)&oldid=56319310
……というのが、度々いろんなとこで言われているネタですけど、不思議というか、おかしなことに「何時」「誰が」制定した日であるかが言われてないんですよね、これ。
ネット上でも誰が言い出したのかはわからない
何だろうなこれは…制定経緯の不明な「7/24劇画の日」。試みにたどるとTwitterでは2010年まで遡ることができる。Wikipediaでの記述追加は2008/7/27。というと「劇画」という語の初出、辰巳ヨシヒロ「幽霊タクシー」(1957年12月脱稿)に基づく「劇画50周年」の気運が界隈にあった頃か...なんだかなぁ。 pic.twitter.com/wYSZIDhRoa
— 表智之 (@miche_r) July 24, 2020
劇画の日
1964(昭和39)年、青林堂が劇画雑誌『ガロ』を創刊した。白土三平の『カムイ伝』を始め、水木しげる、つげ義春等が登場し、大人向けの劇画ブームの拠点になった。
更新日時: 2008年7月27日 05:21 (UTC)
版指定URI: https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=7%E6%9C%8824%E6%97%A5&oldid=20950593
主な執筆者: (改版集計情報)
項目の版番号: 20950593
wikipediaのその辺の記述に関してもどれも同じ。
「劇画の日」なんてあったの知らなかったので調べてみた。
— まんがゴリラ (@manga_gorilla) July 24, 2020
Twitter上で一番古い投稿は2008年7月24日のこれ。
リンク先のHPに掲載されたものには出典の明示がなかったので、現在問い合わせ中。
どういう経緯でこうなったのか単純に興味があるので。https://t.co/HIWeDFtrXe pic.twitter.com/Mi8zqMTyHk
ff外から失礼します。
— 🌾🥥ぱらか・マヤ🐔🥒 (@KK_KL_PP) July 24, 2020
読売、朝日、毎日の過去記事検索にあたってみたところ、唯一毎日が2005年7月24日に記事を書いていました。いつからこの日が劇画の日になったかまでは書いていませんが、このころから大手メディアが記事にするくらいの知名度はあったかもしれないです。 pic.twitter.com/PfcBsY4HFB
どれもかしこも何時誰が制定したのかは書かれておらず、「1964年7月24日にガロが創刊したことが由来」という部分共々ずっと言われつづけて、AIサービスとかそういうのに聞いてみたとしても、その部分のデータだけ見て「1964年が制定された日です」とか答えたりするんですよ。
つまり、誰も制定された詳細を知らないままネタにされてる日なんですよ、「劇画の日」って存在は。
しかも下手すればガロの創刊日すらあやふやな感じすらあるので、
どうなってんのってくらい謎があるんですよ。
7/24はガロ創刊号発売日から「劇画の日」との話をうけて「発売日は8/15の情報もある」と以前書きました。その後、1964年11月号(創刊3号)の読者投稿欄に「サスケ12巻の最後のページには8月15日をお楽しみに! と書いてありましたが、それより早く発売されたので~」の記述を発見。8/15以前は正しそうです https://t.co/kO09Q1MuHs
— 池川佳宏 (@saikifumiyoshi) July 24, 2023
妙な由来の日の制定といえば(失礼)日本記念日協会の制定だったりするんですけど、そっちでは検索しても出てこない。
念のために付け加えると、日本記念日協会には「劇画の日」の登録は無い。下手をすると、ウィキペディアやまとめサイト・雑学サイト「だけ」が典拠の、ただのデマの可能性もあるな…。 pic.twitter.com/rk8lXnmt0G
— 表智之 (@miche_r) July 24, 2020
この時点でも出てきてないから今検索しても出てこないです。
ほんと誰が言い出したんだ、となるわけです。
普通にネットで検索エンジン使って検索する限りでは。
何かを調べるなら国会図書館
インターネット上には多くの情報があり、単語で検索すれば何かしらの情報は出てきます。
しかし、それでも「全ての情報」がネット上に存在するわけではない、というのがインターネットという存在です。
じゃあ無い情報はどうすればいいのかというと、既にあるメディアを検索したり探したりすればいいわけです。
つまり、古来からの調べものの手段としての図書館。
その中で最も多くの本や雑誌などが所蔵されているであろう国会図書館を利用することです。
国会図書館デジタルコレクションで検索する
古い事や単語を調べる場合、まず国会図書館デジタルコレクション(以下NDLデジコレ)を利用します。
資料のOCRデータの全文検索により、すべての資料を検索できるものではないものの(及び精度としてもあやふやな部分もあったりしますが)、それらのデータがある資料(デジタル化され閲覧できるもの)の全文を検索できるので、インターネット上に掲載はされてない資料についての情報が検索しやすくなっています。
とにかくまあ、NDLデジコレで検索すると何かしらの情報が見つかったりしやすいんです。
そんなわけで、「劇画の日」についてもそのまま検索します。
件数は少ないものの、引っかかった結果が出ました。
![](https://assets.st-note.com/img/1722158980072-bYyNpndX8i.png?width=1200)
しかし、検索で出てきたものの古い資料だと「劇画の日常化」や「劇画の日本語版」などのほかのフレーズについての検索結果ばかりで、肝心の事については引っかかってません。
しかし、最後の方まで見ると、ようやく三件それらしい結果が見つかります。
![](https://assets.st-note.com/img/1722159168584-X4FvGONKGH.png?width=1200)
1993年と1999年と2000年。
これだけ見るとなんとも言えないものですが、だからといってネット上でできるのはこれまでです。
「国立国会図書館内限定」と書かれてるように、NDLデジコレを利用してインターネット上から閲覧できる資料もあるものの、著作権だのなんだのの関係で国会図書館の端末から出ないと閲覧できないデジタル化資料もあるわけです。
とにかく、この状態ではこれまでということで、どうにもならないんです、ネット上だけでは。
国会図書館で資料を閲覧する
「国立国会図書館内限定」と書かれた資料はネット上のNDLデジコレ利用では読めません。
でも、行けば読めます。
だから行ってみてきたもの(複写したもの)を引用すれば著作権的にも問題のない、そういうことです。
とにかくそういうあれです。もうめんどくさい。
日本記念日協会の名前の記載
『小学一年生』49(4),小学館,1993-07. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1746465 (参照 2024-07-28)
https://dl.ndl.go.jp/pid/1746465/1/41
小学一年生1993年7月号の「劇画の日」と書かれたものの詳細は、カレンダーでした。
『きょうはなんの日』と題されたカレンダーでした。
ていうかネット上から見られる目次でも『シルバニア きょうは なんの日 カレンダー / 北村凡夫/81』って書かれてますね。
シルバニアファミリーを使ったジオラマ写真と共にいろんな記念日が書かれたカレンダーで、その端っこにはシルバニアファミリーのエポック社の名前と共に、「日本記念日協会」の名前が書かれてました。
つまり、日本記念日協会も認知してるらしいんです「劇画の日」。
1993年まで遡れる「劇画の日」
学年誌カレンダーだけでも一応「書かれてた」証拠にはなるんですけど、
これだけじゃ何時制定されたかわからないままです。
なので、さらにモノを検索。
つまりまたNDLデジコレで検索。
ほかにあてがないので「日本記念日協会」で検索しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1722160297192-GKMnsH7fnw.png?width=1200)
雑誌の「日本記念日協会」そのものについての記事や、小学一年生の他の号のカレンダーのページなどが引っかかる中、ひとつの資料があります。
「ビジネス記念日データブック : 365日のマル得情報」
日本記念日協会 編『ビジネス記念日データブック : 365日のマル得情報』,日本経済新聞社,1993.4. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/13270368 (参照 2024-07-28)
日経から出た日本記念日協会編集の本。
1993年4月発行。
中身は題名通り、記念日についての本でした。
そして、この本にも「劇画の日」について書かれていました。
「劇画の日」
劇画ゲームの先駆けとなったマンガ雑誌『ガロ』が1964年(昭和39年)のこの日、創刊されたことに由来する。白土三平の「カムイ伝」など、数々の話題作が『ガロ』から生まれている。
https://dl.ndl.go.jp/pid/13270368/1/64
(『劇画ゲーム』は原文ママ)
……書かれていたはいいものの、これにも「何時」「誰が」制定したのかが書かれてませんでした。
しかも誤植付き。
何がどうビジネス記念日になるのかはわかりませんけど、書かれてんですよ、劇画の日。
日本記念日協会の編集のものに。
じゃあなんで日本記念日協会のサイトには掲載されてないのか、ってなるんですけど、日本記念日協会の制定する記念日には取り消しもあるらしいんですよ。
●登録前の注意事項
記念日登録審査において審査料は発生しませんが、以下に該当する場合、合格の取り消しおよび審査等に要した経費として登録料の半額をお支払いいただきます。
審査会で合格後に、申請者自ら登録の取り消しを希望された場合
期日までに登録料のお支払いがなされなかった場合
https://www.kinenbi.gr.jp/mypage/entry
回答までに数日要する場合や、内容によっては回答しない場合がございますので予めご了承ください。
以下については回答いたしません。
~
・過去に登録されていた記念日(現在掲載されていない記念日)に関するもの
https://www.kinenbi.gr.jp/mypage/contact
過去の出版物には掲載があった(認知されていた証)。
だが、現在には無い、じゃあ現在の制定は取り消されたのではないか考えるわけです。
あまりにも証拠なるものが少なくて、憶測でしかないですが。
グラフィックソフト「SUPER KiD」の開発元である株式会社ツァイトが、7月31日付けで2度目の不渡り手形を出し活動停止状態となり、事実上倒産したことが明らかとなった。これは、8日付けの同社ホームページで山中社長の名前で告知されたもの。
~
また、雑誌「ガロ」で知られる青林堂を関連会社としていたが、青林堂では7月7日付けで全社員が退社するなど、混乱が続いており「ガロ」9月号が休刊せざるをえない状況に陥ったことが引き金となった。
~
('97/8/11)
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970811/zeit.htm
憶測に憶測を重ねる事にはなるんですが、1997年に当時のガロの出版社である青林堂の親会社であるツァイト倒産が関係あるんじゃないかなあと思います。
(この辺の情報そのものは適当に調べてください)
その辺で取り消しがあったなら、今現在登録が無い状態にはなるのではないかと。
(登録者が「青林堂」であったなら、取り消すのもできるわけですし)
1983年より、記念日についての研究、情報の収集、広報活動を行ってきた日本記念日委員会が、 記念日に対する人々の理解と関心を高めるために、1991年4月1日に「日本(にほん)記念日協会」として正式に発足、活動を開始しました。
https://www.kinenbi.gr.jp/mypage/about
80年代から既に言われていたなら、もっと言及されてる資料があってもおかしくはないと思うんですけど、まったく無いですし、協会が制定した記念日なんじゃないかともまた憶測で思うわけです。
疑いはあるけど結局「劇画の日」の詳細はわからず仕舞い
だって、遡れた本にすら「何時」「誰が」制定したかは書かれてねえんですもん。
現在確認できただけでも1993年から「ガロの創刊が由来です」の一点張り。
だからみんなずっと「ガロが由来です」としか書いてないんですよ。
それしか書かれてないんだから。
ひどい。
[編]日本記念日協会(ニホンキネンビキョウカイ)
記念日についての研究、情報収集、広報活動などを行い、社会に対する文化的・産業的貢献をめざす。主な活動は「月刊・記念日情報」の発行、記念日の登録業務、記念日の市場調査、記念日に関するコンサルティングなど。
https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4120
この世に出回ってるかはわからないですけど、広報誌であるらしい「月刊・記念日情報」を読むことができれば詳細は出てくるかもしれないですけど、あるんですかねえ、どっかに(普通の人に手に入るという意味合いで)。
仮にツァイトの仕業だとしても、当時のガロ本誌に書かれたりしたら既に話題にもなっているでしょうし、書かれてはないのかなあ、みたいにも思ったりでで、少し掘ることはできたものの、真相にまでたどり着けてないままです。
「既に制定が取り消されたものの、未だにネタにされ続ける記念日」という疑いのある、止まることのない「呪い」の詳細がわかる日は来るんでしょうか。
ほんとうにひどい
(追記)「劇画の日」はいつまで掲載されていたのか
日本記念日協会は「ビジネス記念日データブック」のように、自ら編集した本を発行するような活動もしているところで、検索すると実際何冊か記念日について書かれた本が出てくるわけです。
![](https://assets.st-note.com/img/1722544655313-kicJZstoMq.png?width=1200)
これらの本にあたればもう少しはわかることがわかるのかなあ、とあたってきました。
日本記念日協会 編. 記念日ハンドブック : 365日今日は何の日? 2001年版, 日本経済新聞社, 2000.12. 4-532-14874-X. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002950725
![](https://assets.st-note.com/img/1722544879292-c3xnTBsK3c.png?width=1200)
2000年(2001年)の本には掲載
NDLでは暫く無理なので他所で確認しました。
一刷が2000年内で、ニ刷が2001年になっていたので、こういう表現
7/24
●「劇画の日」
劇画ブームの先駆けとなったマンガ雑誌『ガロ』が1964年(昭和39年)の今日、相関されたことに由来する。白土三平の「カムイ伝」など、数々の話題作がこの雑誌から生まれている。
結局おんなじでした、これも。
2009年、2013年、2016年の本には掲載
[劇画の日]
劇画ブームの先駆けとなったマンガ雑誌『ガロ』が1964年(昭和39)年のこの日、創刊されたことに由来する。白土三平の「カムイ伝」など、数々の話題作がこの雑誌から生まれている。
p.132
誤植修正や細かい差異はあるものの、1993年のビジネス記念日データブックから変わらぬ記述。
本当に「何時」「誰が」制定したのか書かれてないままでした。
日本記念日協会 編ほか. すぐに役立つ366日記念日事典. 改訂増補版, 創元社, 2013.12. 978-4-422-02112-6. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I025060595
加瀬清志 著ほか. すぐに役立つ366日記念日事典. 第3版, 創元社, 2016.8. 978-4-422-02113-3. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I027528328
改訂版、3版においても同文で7月24日のところに掲載されていました。
2020年の版で消えている「劇画の日」
加瀬清志 著ほか. すぐに役立つ366日記念日事典 下巻. 第4版, 創元社, 2020.7. 978-4-422-02115-7. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I030511631
4版では上下巻になるほど記念日が増えてるらしい、すぐに役立つ366日記念日事典。
この版になると劇画の日は載っていませんでした。未掲載。
2016年から2020年の間で取り消しあったんでしょうか。
だから今の日本記念日協会のサイトで検索しても出てこない、ということになるわけで。
劇画の日に疑問に思った人らが検索した時期にはもう消えてた事になるわけでもあって。
かつて掲載があったかもしれないとしても、今それを確認する手段がないような状態でもあります。
取り消されたものへの問い合わせ禁止ですし。
いろんな意味で止められないミームになっちゃってんですよね。
ほんとどうしようもない。
ひどい