VUCAにおけるコンサルタントの活用について

私は、デジタルマーケティングコンサルタントとして、クライアント企業さんのCX(顧客体験)の改善や・新規顧客体験の開発を支援している。

顧客体験の改善/開発の方法論は、例えば「デザイン思考」「UXリサーチ」など、ある程度型化、一般化されている。
しかしながら、なかなか顧客体験の改善/開発がうまくいかないケースもある。

この記事では、顧客体験の改善/開発がうまくいかないケース、それらを改善するための手段をしながら、クライアント企業の会社組織の外にいる人間としての、コンサルタントの価値について述べたい。

なぜ顧客体験の改善/開発はうまくいかないのか

その原因は、例えば、以下のようなものがあげられる。

  • 新規顧客体験(アプリなど)開発にはコストがかけられるが、ローンチ後の改善は需要視されていない

  • 改善内容が「鶴の一声」によって決まる

  • 顧客を見ず、自社ビジネス都合でマーケティングを実施している

  • 社内に複数事業部があり、各事業部は自事業部の売り上げ優先で動く

以下それぞれ見ていきたい。

新規顧客体験(アプリなど)開発にはコストがかけられるが、ローンチ後の改善は需要視されていない

例えば
「新規顧客体験の開発は重要だ」新規アプリ開発プロジェクトが発足し、なんとかローンチまでこぎつけた。
しかし、ローンチとともにそのプロジェクトは解散。
アプリ担当事業部の数名が残るが、改善に回す人・もの・かね・時間がない。
もちろんこの状態でマスマーケティングを行っても、アプリの継続利用者が増えることはない。
というケース。

改善内容/方針が「鶴の一声」によって決まる

例えば、
取締役が、競合他社のアプリで新機能実装を見かけた
翌日、会議でその話が出て、同一機能を実装することが決まる
現場は、その実装のために尽力。ローンチ後、顧客はその機能をあまり使わなかった。
というケース。

顧客を見ず、自社ビジネス都合でマーケティングを実施している

例えば、
「自社の収益維持のためには、このサブプロダクトの利用が必要だ。」
顧客に向けそのサブプロダクトの遡及を繰り返す。
しかしながら、顧客はそもそもそのサブプロダクトの必要性を感じておらず、販売は伸びない。
というケース。

社内に複数事業部があり、各事業部は自事業部の売り上げ優先で動く

例えば、
それぞれの事業部長は、1つでも多くのメール配信枠を自事業部の商品訴求に充てようとする
それは、確かに事業部KPI(=売上)達成のためには正しい判断となるが、顧客から見ると「高頻度に求めていない情報を受け取ること」につながり、メール許諾拒否につながる
というケース。

なぜこのようなケースが頻出しているのか。

現在会社のTOPにいる方々が現場にいた時代は、日本にはものが足りなかった。
企業は、顧客が欲しいものがわかっていた、出せば売れる時代だった
「新機能の拡張」、「スペックの向上」は売り上げを連れてきた。

今は違う。(というか、だいぶ前から違う。失われた30年はこの変化への適応ができていないことだと思う)
モノは飽和し、人は商品を購入する動機が弱い。
価値観は多様化し、それぞれの価値観にフィットしたものをそれぞれの人が使っている。
企業は、消費者を知り、学習を続けなければ、売れるものは作れない。

時代は変わったにもかかわらず、古い時代のOSを持っている人たちが意志判断をしている。
時代の変化を感じることができる若者は、数年で企業のヒエラルキー文化に染まり、「物言わぬ作業者」となる。
結果、上層部の意見が芯を喰っていない時でもそのまま下まで通ってしまう。

※この文章は、上層部の方々批判のような印象を受けられるかもしれませんが、そういう訳ではない。という注釈を少しだけ。
上層部も上層部で、大変なのです。
過去の成功法則で生き抜けた時代は、「上が正解を知っている」状態だった。
今は、新しいこと・未知のことに取り組んでいる。絶対的な正解はそこにはない。
しかしながら、過去からの文化的継承で、「上層部が正しい意志判断をする」とほかの人たちが思っている。
その中で発言を日々していかねばならない苦しさがある。
上層部の方とお話ししているとき、その苦しさをお話しいただくケースも多くあります。
上層部の方は、その苦しさを現場に共有することが始まりになるケースもあると思います。弱みを見せるリーダーシップ、といいますか。
(この現象は、経営者や現場の個人の問題ではなく、組織構造的な問題だと思います。ユングや河合隼雄の言う「集団的無意識」が企業に働いている ととることもできますし、ギュスターヴ・ル・ボンの「群集心理」の中にもこの状況を読み解くヒントがあるようにも思います)

どうすればこの状況を改善できるか。

状況の改善に必要なのは、最新のマーケティングテクニックでも、AIなどの技術でもない。

目の前で起きている判断・実装1つ1つに、違和感を感じること。
そして、その違和感を口にし、「これ本当にやるべきなんですかね」と対話をすること。
上層部も現場も関係なく、全員で顧客のことをよく知ること「顧客が何を求めているのか」に興味を持ち、知り、それにこたえること。
西口一希氏のN1分析も、過去一世を風靡したデザイン思考も、グロースハックも、結局言っていることは「ちゃんと顧客を見ているか」そこにつきる。

しかしながら、「違和感を口にすること」は、その企業体の力学の中にとらわれていると、なかなか難しい。
 (「おこると怖いあそこの部長にケンカを売ってしまう」、「年末評価にかかわる」、「誰も何も言わない中で私だけが何か言うことははばかられる」などなど、いろいろな事情が存在。)

だからこそ、私たち外部のコンサルタントが存在していると私は思う。
コンサルタントの価値は、もはや新しい情報を届けることではなくなった。(専門的な業務を深いレベルで遂行することはもちろん、私たちの価値として残るが)
最新情報は、書籍でも、Webでも、AIでも、セミナーでも、いくらでも取得可能だ。
組織に介入し、正常に血液(=情報)が組織の中を流れるようにすること、これはコンサルタントの新しい価値だと思う。
私の好きな武山政直先生は、「デザイナーの役割は、ソリューション からインターベンション(介入)にかわる」とお話しされていましたが、
コンサルタントの役割もまた同じだと私は思う。

では、具体的にどのような介入が可能なのか。
私がこれまでに行った手法を簡単に以下に説明したい。

中間マネージャー層との定期的な1on1および、グループの定例会議への参加・介入

中間マネージャーと定期的に1on1を行い、課題点、課題解決のための動き方、動いた結果について話し合う
同時に、グループの会議に同席し、違和感のある所を主体的にコメントをし、「この会議は思ったことを口にしていい会議だ」という印象を醸成
場合によっては、メンバーの皆様に「この点についてはどう思うか」と発言を促すファシリとして介入
 

現場メンバーの方の目の前のタスク遂行の支援

定期的な人事異動のある組織などでは、現場メンバーの方が「このやり方でよいのか」がわからないケースや、業務遂行に必要となる基本マーケティングスキルをお持ちでないケースもある
(そして、「自分が知らないこと」を発言することははばかられ、問題化するまでその事実は明るみに出づらい)
このような場合は、それぞれのタスク進行について、現場メンバーの方とのタスク進行ミーティング、相談会を実施し、
進行方針についての助言、不足知識のティーチングを実施
現場メンバーの方が、目の前のタスクを自信をもって遂行できるようにする
(「知らないことを聞くことは悪ではない」という介入も実施する)

現場メンバーの方の心理的ケア

時には、「期限に間に合わない」「隣の部の方に依頼をしたら嫌な顔をされた」「●●部の部長さんの圧が強い」「この決定には違和感を感じている」など、現場メンバーの方がこころにわだかまりを持ちながら業務をしているケースもある
(このケースを放置していると頻発するのが、「静かな退職」だ)
この違和感が、実は組織を変革する際の原動力でもあり、気づきでもある。
この状況への対応としては、
「その違和感を大切にしてほしい」という勇気づけを行う
(この状態は現場メンバーの方には心理的負荷がかかっていることが多いので、それを共に感じて、少しでも現場メンバーの方の気分が軽くなることは個人的にもうれしい)

定期的な振り返り

現状維持ではなく、現状を変えるための力を起こす。
現場メンバーの方を中心に(場合によっては現場メンバーの方のみで)業務遂行の振り返りを行う
この時のポイントは、「犯人捜し」ではなく「改善点探し」
「より気持ちよく仕事をしていくために、今気になっていること、違和感を感じていることを共有していきましょう」というファシリテートをする
小さなことでも、改善できることから、改善していく
感じている違和感は、自分だけではなかった ということがわかると、それがチームとしての安全性にもつながる
(ここで注意いただきたいのは、安全性とは、「相手のことを批判しないこと」と感じておられる方も最近多いように思うが、決してそうではない、ということ。)

現場メンバーの方の主体性向上プログラム

学生時代は偏差値、社会人になったら業務評価(営業であれば売上額など)、絶対的な指標をたたき出すことや、「正解を追うこと」が私たちの生き方の指針になっている。
しかし、この価値観では、「企業の今の活動の中に違和感を見出すこと」は難しい。
「自分はどんなことが好き」で、「どんなことをしたく」て、この会社に入ったのか。その初期衝動を思い出してもらうことは、現場メンバーの皆さんが主体性を持ち仕事に取り組むきっかけづくりに有効だ。
また、「上の言うこと聞いていればX年後には出世できるし、俺の人生チョロいよね」から「このままでは俺が職業人生を終えるまでこの会社持たないよね」へのシフトもまた有効だ。
これらを通じ、「仕事をする上での心構え」をシフトする。

研修

特定領域のスキルの実装がチーム全体に必要と考えられる場合には研修も実施する

合宿

上層部、それぞれの事業部がバラバラな方向を向いてしまっているときは
上層部・マネージャーで改めて腹を割って話すことも有効

まとめ

私は、このような課題感を持ち、その改善に取り組んでいます。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
最後に主旨をまとめます。

デジタルマーケティングの成功には、デジタルマーケティングの知識・スキルの伝授/専門業務遂行だけでは不十分だ。
以前は有効な仕組みとして機能していた「上意下達」「組織ごとの役割分担」の副作用が大きくなり、組織が機能不全を起こしている状態からの脱却には、組織が自分たちの違和感に「気づき」「改善する」OODAループを回すことが必要だ。
それは、組織として無意識の中に沈んでしまっている違和感を、拾い上げることでもある。
しかし、その営みは衝突も多い、組織の中からは正直起こしづらい。
これを起こすための触媒に使うことは、VUCA時代の外部コンサルタントの活用方法としては、悪くないと思う。

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