岡本法律事務所 法律随筆
組織的殺人罪における共謀の認定
弁護士 岡本 哲
井上国春組長の組織的殺人罪について一審無罪(求刑懲役25年)、2審では一審破棄有罪懲役25年、現在最高裁へ被告人側が最高裁へ上告中である。
共謀共同正犯の共謀を認定する場合、実行行為者と被告人との関係については①犯罪的組織とは無関係、②犯罪的組織とが観念される。①の場合に犯罪の共謀が認定されためには相当の動機づけが求められる。②の場合は動機の形成自体は比較的容易に認められるが被告人と実行行為者間の具体的な意思疎通行為の内容が問題となり、被告人の実行行為以外の加担行為等をあわせて創刊的に共謀共同正犯の成否を認定する必要があるか(「刑事事実認定(上)」1992年350頁参照)。本件では被告人が実行行為者を支配する関係にあること、犯行全体が組織的に整然とおこなわれたことから共謀を認定している。 判決理由で的場裁判長はまず、兼國会の組長である井上被告の支配力が「暴力団特有の厳格な上下関係や暴力的価値観を背景とする絶対的なものであることは経験則上明らか」と判断。今回の事件について「兼國会の最高幹部らや下部組織の組員が相当数関与し、実行者の人選や運搬、実行、逃亡支援などの役割分担がされており、兼國会の指揮命令系統に従って組織的に準備、遂行された」と認定した。 さらに、犯行の動機が幹部らの個人的な利益とは到底考えられないことから、「上部組織との関係を含む兼國会としての重大な利害のために行われたことは自明というほかない」と指摘。兼國会のために組織として行われた犯行である以上、「井上被告の指揮命令に基づかずに行われたというのは、極めて不自然で通常はあり得ないというべきだ」と結論づけた。 加えて、判決では暴力団犯罪全般についても言及された。 暴力団の組織的な犯行は「経験則上、特段の事情がない限りは、当該暴力団の組長が共謀に加わり、その指揮命令に基づいて行われたものとすべきだ」と判示。今回の事件については「暴力団の組織や行動に関する経験則のとらえ方が重要な意味を有する事案」と評した。 伝統的な認定方式にのっとったものといえる。ただし、共謀の日時・場所は特定されていない。 落合誠一弁護士は「共謀」というものをどのように捉えるか、という、根本的な問題があるでしょう。従来の刑事実務では、「特定の犯罪を遂行する合意」と捉えられてきて、相応の内容、重みをもって考えられてきたと思います。組の下の者が誰かをはじいてしまおうと画策している、それを知った組長(「知った」経緯も問題になりますが、合意を形成するような状況ではなくたまたま知って)が止めなかった、といった場合に(より上位の組から直接、配下に指示が出され下部団体の組長は蚊帳の外ということもあり得ます)、どこで共謀が形成されたか、かなりの微妙さがありますが、上記の判決の論理では、そういうものもざっくりと共謀に含めてしまうことになるでしょう。そのような共謀は、かなり希薄化されたものになり、むしろ、組織犯罪集団を形成している以上はその集団が犯した犯罪には知っていようがいまいが責任を負うという、国際組織犯罪防止条約の結社罪に通じる、共謀とは異質な刑事責任の世界になりそうな気がします。組織犯罪の処罰の在り方や今後の立法論も併せて考えないと、共謀というものがますます希薄化し、そこに、「共謀罪」が導入されることで、組織犯罪以外にも希薄化された共謀概念が広く及ぼされてしまうという、かなり危険な状態にもなりかねないでしょう。(落合ブログ2014年2月4日より)と指摘されている。筆者としては自白が得られない以上、日時場所の特定は不可能である。となると、これを要求されれば上位者処罰は不可能となる。共謀の内容は客観的に認定できるとして、組織内の主張立証ができていれば、組織的集団の組織的利益の場合は上位者に責任は及ぶという定式自体は認めていくしかないように思われる。判決に関する記事2014.2.4 07:00 [衝撃事件の核心 west] 「名古屋=弘道会に押される山健組の窮地」6代目山口組事情で起きた組長殺害、裁判員「無罪」を2審が覆した“理由”
内容はここまでです。なげ銭方式です。
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