多摩川にはゆとりがあった話
多摩川競艇場に行ってみた。
ぼくの住んでいる府中市には東京競馬場の他に多摩川競艇場がある。
競艇場の方が家からは近いし、高速道路を降りるとすぐのところにあって、
なんだか生活に食い込んできそうな距離にあると感じていた。
府中はラグビーシティ、なんて言っているけど、その前にギャンブルシティだよね。
ちなみに調布の競輪場も割と近いので、このトライアングルに支えられて生きていける人が少なからず近所にいるのかもしれない。
この日は時間を潰すという目的があり、競艇場に入ったこともなかったので寄ってみようと思い立ったのだ。
そう時間を潰すのが目的で、ぼくは文學界を1冊、そしてつい先日購入した生活綴方出版部の冊子も持ってきていた。
全部はもちろん読めないのだけど、そのくらいの選択肢は時間を潰すには必要だ。
以前、東京競馬場でやったように、なんとなくその敷地を見学してから、腰掛けて読書をするつもりでいたのだ。
自転車で向かうと、意外にも駐輪場は満杯で、なんとか見つけたスペースに自転車を止めて、少しだけワクワクしながら競艇場に入場した。
競馬場のように入場料は必要なのかなとか、全く事前に確認していなかった。
競艇場は競馬場と異なり空気が重かった。
東京競馬場でも警備員の老人がたくさんいたのだけど、かっこいい制服を着た若い職員もたくさんいたものだ。
だが、競艇場は開催日ではなかったこともあってか警備員はみな老人で、若い人はまるでいなかった。
駐輪場では酒を飲みながら喫煙をする老人がいたし。
バスを待ちながらカップ麺を啜る老人など、多種多様な老人がそこかしこで喫煙していた。
かなり高齢者が多くて、若者といえるような人は数人だった。
この日は開催日ではなかったけれど、各地の競艇場の舟券が購入できて、その中継が絶えず流れていた。
とはいえ競馬のように声が出ることもなく。いつ終わったのかもよくわからないですくらい淡々と進んでいくレース。
なんとも居心地が悪い。
聞こえてくるのは、老人のえづきくらい。
ベンチもあるのだけど、大抵は老人が座っているか、荷物のようなもの(としか言いようがない)が置いてあったりするので、
ベンチに座るのも躊躇してしまう。
結局、その場にいたのは10分ほどだったかもしれない。
なんとなく一回りして、これは読書をするようなところではなさ過ぎると感じた。
いや、そもそもいるだけでも結構辛いなと。
競馬場よりも、閉塞感があって、老人が多くて、喫煙者が多くて、治安が悪そうだという印象を受け、足早に競艇場を後にした。
ここは家族で来るようなところでもなさそうだった。
時間を潰すという目的は果たせなかったし、読書もできなかったので、
自転車を走らせて多摩川まで出て、多摩川サイクリングロードの是政橋のあたりに向かった。
そこで土手に座って、草野球を眺めながら小一時間読書をした。
風がいい具合に抜けていて、心地よく、時折聞こえる打球音も、いいアクセントであった。
なんだ、時間を潰すならこれでいいではないか。
多摩川サイクリングロードで読書をしつつ、時折通り過ぎていくロードバイクを見たり、
歩いている家族連れをみて、どんな話をしているのかななんて想像する。
そしてまた読書に戻る。
こんな時は短めのエッセイがいくつも収録されているものが良い。
暑くもなくて、心地よい天気ならば多摩川で読書をするのも悪くないなと発見できた。
競艇場、行かなくても良かったね。