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読書リハビリ:新潮 2023.7

初めての新潮。
気になったものがあったので購入してして解体してみた。
そう、解体も目的の一部。

「三人道三」円城塔

不思議な歴史小説、斎藤道三と明智光秀の話、そして道三は何人いたのかという話。
斎藤道三といえば美濃のマムシ、ただその功績は本当は一代でなされたものではないという説がある。
それを知らせてくるのが明智光秀。
明智光秀もその出自は正確にはわからない。そもそも美濃の出身というのも怪しいという説がある。
そしてなぜかそんな説を現代から知らされる。
不思議な話。そしてどちらの英傑もはっきりしない出自も含めて、やはりただなら無ものがあるからこその英傑なのだろう。
ふんわりとした感想。

「深夜の恋人」石川淳

第二次大戦中の埋もれていた小説が発掘されて掲載という触れ込みに気になっていた。
そうこれが目的で購入に至ったのだった。
雑誌「エコー」という大正に創刊され、戦中の1940年に終刊となったものがあった。
これは現在では国立国会図書館にも所蔵されていないような類のもので、その中の365号、1938年の物に掲載されていたのが本作。

明示こそされないが軍人と思われる婚約者がいる令嬢であったり、一時的な婚姻など、戦時中のやや皮肉の混じったような話で、ページ数にして4ページ程度であった。
絵本になるような話のようでいて、風刺漫画のようでもあった。

「リクライニング・イオンモール」児玉雨子

今回、一番記憶に残ったのがこちら。
「街の気分と思考」というリレーエッセイ、著者が京都の親戚に会いに行った際に泊まった滋賀県での出来事。
ホテルの浴場ではなくスーパー銭湯に行こうと、草津のイオンモールへ向かう。スーパー銭湯はピエリ守山とイオンモール草津の両方にあった。

早く風呂に入りたかったので、より近所のイオンモール草津のほうに行くことにした。そしてこのイオンモール草津こそ、ピエリ守山を「綺麗な廃墟」同然に追い込んだ大手モールだった。
(中略)
イオンモール草津は全三階建ての構造であまり高いとは言えない。その大きさは広さと長さにあった。

「リクライニング・イオンモール」児玉雨子 新潮2023.7

適当に入ったイオンモールはレストランエリアであり、目的のスーパー銭湯はなんと別棟だった。でかすぎるだろ。
Googleマップに案内を促すと徒歩12分と出る。
結局、著者は一旦駐車場の車に戻ることになる。

停まっている車は少ないはずなのにどこに停めたかわからなくなり、数分ほど駐車場を彷徨ってようやっと車を見つけた。安堵しながら振り返ると、イオンモールが涅槃像よろしく肘をついて、私に「お主、この土地のものではないな?」と訊くように睥睨していた。

「リクライニング・イオンモール」児玉雨子 新潮2023.7

涅槃像、または孫悟空を手のひらでもてあそぶお釈迦さまのごとくだ。
その支配からは逃れられない。
ぼくは東京で生まれ、東京で育ったので大きめのショッピングモールとは縁がない人生だった。
越谷のイオンレイクタウンに行ったのが初めてだったかもしれない。
最近では妻の実家に行く途中にある高崎のイオンモールに寄ることがある。
その程度の付き合いだ。
そしてショッピングモールは、行ってみれば少し楽しげだけど、何か恐怖があった。
ぼくがよそ者であることと、その巨大なモールに原因があったのかもしれない。

ショッピングモールのフードコートは、かつての公園や河川敷のように、公共スペースのような役割も果たしている、らしい。
じっさいにTikTokを見ると、友達と一緒にフードコートで踊っている子たちは決して少なくなく、こうして仲間内でちょっとだけ悪いことをするのも、モールの敷地内だ。ショッピングモールに見守られながら、子が育ち、傷つき、社会から逸脱し、また戻ってゆく。

「リクライニング・イオンモール」児玉雨子 新潮2023.7

そしてこの節。
ぼくが感じているショッピングモールとの距離感の答えが詰まっている。
TikTokをやるどころか、見ることはないし、友達とフードコートに行くこともない。
著者と同じく、ショッピングモールへは特定のお店にしか用がなく、用が済めばすぐに去る場所だ。
色々と合点がいき、そして思う。
ショッピングモールとの適切な距離感と、今後の付き合い方について。
端折った部分も含めて、長くはないが中身の詰まったとても面白い文章だった。
こういう分量で、的確な文章をもっと読みたいものだ。


サポートをしていただけたら、あなたはサポーター。 そんな日が来るとは思わずにいた。 終わらないPsychedelic Dreamが明けるかもしれません。