少年ジャンプを卒業する時期なのかもしれない
私の好きなものトップ5に常に入っていた「漫画」「アニメ」という娯楽ジャンルですが、実はここ半年ほどあまり見なくなりました。
正確にいうと、過去の完結作品で読みたいものについてはすべて読み終わり、読み続けていたものの多くが連載終了(完結)しました。
今少年ジャンプで残されている作品はONE PIECEとHUNTER×HUNTERくらいですが、ONE PIECEはもう終盤に至っていて、残された論点を片付けているところという感じです。
HUNTER×HUNTERは素晴らしい作品ではあるものの、キメラアント編がピークだったなと思っています。
そもそも連載と呼べるものでもないですし、今はもう少年漫画からは逸脱しているような難易度と連載ペースになっているので、今後読み続けても完結する前に違う角度から連載が終了すると思っています。
残っている連載作品で、数ヶ月に一回くらいまとめて読もうかなと思える作品はパッと脳内に出てこないレベルになってきています。
鬼滅の刃もハイキューもヒロアカも呪術廻戦も終わってしまったので、少年ジャンプで今連載しているもので、今後それらに匹敵する作品はあるとは思えない感じです。
もちろんなかなか良いと思える作品もあるのですが、直近の連載作品たちが強すぎたなという感じがあります。
私の中では本格的に暗黒期が来る手前のような感覚で見守っています。
これは少年ジャンプに限った話ではありません。
他の少年誌及び漫画媒体でもかなり深刻な名作不足が続いています。
小粒は出てくるのですが、週刊連載に耐えられずに休載したり、勢いを失って消えていくものが多いです。
少なくとも私はそういう印象を持っていて、電子版でまとめ買いをするほどではないという作品が多いです。
今後も続きを読みたいなと私が思っている作品も徐々に少なくなってきていて、思いつく限りで、キングダム、怪獣8号、葬送のフリーレン、ワンパンマンくらいです。
あとは無数に存在する異世界系漫画を極たまに消費するくらいです。
漫画大好きな私でもこういう状況なので、漫画をそもそもあまり読まない層についてはもっと遠ざかっているのではと思っています。
私が若い頃は漫画のネタでいくらでも盛り上がれたのですが、今の20代同士の人たちが漫画のネタで盛り上がっている場面をほとんど見ません。
誰もが読んでいる共通作品みたいなものがほとんどなくなっているという点と、メインの娯楽が多様化したことが原因かもしれないです。
いずれにしても、漫画を読む層が減少しているのはたしかでしょう(少子化ですから)。
ドラゴンボールが終わるときは、スラムダンク、るろうに剣心、ONE PIECE、HUNTER×HUNTER、BLEACH、ナルトなどが次々に出てきて、かつ、ONE PIECEがスマッシュヒットをかましてくれて、その後もドラゴンボール以上の活躍を示したので生き延びましたが、今回の場合はONE PIECEの跡継ぎが見当たらない(ONE PIECEの跡継ぎ候補がONE PIECEより先に完結した)という状況になっている気がします。
スラムダンクやHUNTER×HUNTERクラスも見当たらず、BLEACH、ヒカルの碁や銀魂クラスの作品が出るかも怪しいという印象です。
これは少年ジャンプの発行部数にも顕著に現れていて、少し古いデータ(2023年6月まで)ですが、以下のように右肩下がりで減少し続けています。
もちろんジャンプも手は打っていて、次から次に新しい連載を投入し続けてはいます。
しかし、残念ながらスマッシュヒットは出てこず、打ち切りが続いている状況です。
少しヒットしている作品については順次アニメ化していて、今後そのアニメの出来次第で本誌に移ってくれる人がいるかも知れないですが、私の中では微妙なアニメだったなという印象が強いので、本誌を見ようとは思えていないです。
あえて作品名は述べませんが、集英社側もこれらの作品たちには力を入れているようで、一生懸命ショート動画やインフルエンサーマーケティングを駆使して周知しています。
その結果小さくヒットはしそうなのですが、おそらく長続きはしないだろうと思っています。
ここ最近でスマッシュヒット作品があまり出てない原因を考えてみると、私は「深刻なネタ切れ」が発生しているとう印象を持っています。
つまり、過去にスマッシュヒットをかました作品群がネタの組み合わせを網羅しつつあって、どのような組み合わせで勝負しても二番煎じ感が出てしまうという論点が発生しているように見えるのです。
私の見解では、漫画も小説も根は同じだと思っています。
どんな要素を掛け合わせるかが重要で、その掛け合わせが斬新であればあるほどストーリーに独創性が出て面白くなると思うのです。
もちろん著者の画力やストーリー構築能力も重要なのですが、根本的な組み合わせが在り来りだと、どうしても過去の名作と比較されて勝ちづらくなります。
逆に、掛け合わせが斬新ならば、画力が多少弱くても問題ないのです。
直近のスマッシュヒット作品の中で、掛け合わせが天才的だと思ったのは、進撃の巨人です。
まだ読んでいない人もいるかもしれないので、細かくは言いませんが、この作品は今まで誰も組み合わせたことないだろうという斬新な要素を複数掛け合わせていて、全くもって予想がつかない作品でしたし、すべてのストーリーに大人が考えさせられるほどの意義があって、深い作品でした。
私の個人的な見解ですが、進撃の巨人を読み込める人(ハマりやすい人)というのは、ある程度地頭が良い人だと思うので、この作品にハマった時点である程度お金を持っている人だと思うのです。
もしかしたら連載当初はまだ若くてお金もなかったかもしれませんが、連載終了時点(約12年後)ではある程度お金を持っているという構図が出来上がっています。
私の周りで進撃の巨人が昔から大好きという人たちも皆さん年収が比較的高いです。
ゆえに、電子書籍でも紙の書籍でも、一気にまとめ買いしてくれます。
こういう層を惹きつけられたのは大きいと思います。
進撃の巨人は、お金をあまり持っていない子どもたちより、お金を持っている20代~30代をハマらせたという素晴らしい作品です。
私も全巻買ってしまっていますし、アニメも見まくっています。
ストーリー展開や伏線の張り方など、すべて素晴らしい作品でした。
画力については正直漫画家とは言いづらいレベルだと思いますが、そんなの関係ないくらいストーリーの組み合わせ方が天才的です。
確か累計発行部数でも1億4000万部以上売れていて、歴代の漫画作品の発行部数ランキングでもトップ10に入るくらいの凄さだと思います。
ちなみに、歴代1位はONE PIECEで5億1000万部以上です。
このように、素晴らしい組み合わせを生み出せればスマッシュヒットを狙えると思うのですが、すでに過去の名作たちが様々な組み合わせを生み出してしまっているので、もうネタが無いのです。
少なくとも私はもう思いつかないです。
少年漫画というジャンル(主に少年が読むことを前提にしているジャンル)で、面白くし得る組み合わせはある程度限定的なので、重たいテーマとか悲しいテーマを組み合わせること自体が難しいのです。
そういう負の要素を組み入れすぎると、大人向けになってしまうので、ターゲットがズレます。
それゆえに、少年漫画というのはかなり制限された組み合わせの中で勝負しないといけません。
その結果が今のネタ切れ状態かなという印象です。
さらに、ドラゴンボールやONE PIECEのような長期連載という要件を満たす作品にするためには、インフレ可能という要素、又は量産可能という要素のいずれかが必要です。
例えば、ドラゴンボールの場合は、孫悟空が子供の頃からストーリーを始めたので、孫悟空も敵も徐々に強くなっていくという「インフレ」が可能でした。
しかし、ドラゴンボールは終盤になっていくにつれて徐々に強さのインフレが限界を迎えまして、宇宙レベルに強い奴らが出てきてしまった結果、孫悟空をこれ以上強くすることが難しいという状況に陥りました。
多くのドラゴンボールファンが魔人ブウ完結編(連載もここで完結)がラストで良かったと認識しているでしょう。
その後アニメオリジナルとしてGTがありますが、ここについては好き嫌いが分かれます。
私は好きですが、強さのインフレはもう凄いことになっています。
この強さのインフレが上の方に行けば行くほど、現実から乖離した漫画になっていき、子どもたちの想像力の限界を超えてしまうのです。
最初の頃は、たった一人の人間の死が大きなテーマで、とても悲しい話として描かれていたのに、最後の方になると地球そのものを消滅させたり、銀河を滅ぼしたりするようになるわけですから、人間の命がどんどん軽くなってしまいます。
これだと長期連載は厳しくなっていきます。
これはスポーツ漫画でも同じです。
最近の例でいうとハイキューが挙げられます。
ハイキューのスタートは、主人公である日向翔陽と影山飛雄が中学3年生の最後の大会で出会うところからです。
ここから二人は同じ県立高校に入って、春高(春の高校バレー 全日本バレーボール高等学校選手権大会)を目指すわけですが、舞台が宮城県なので、そこまで強すぎる高校生チームを出すわけにはいかないのです。
あまりに強すぎるチームを出されるとさすがに読者が冷めます。
バレーをやってきた人であればあるほど、各県の強さのレベルを把握していますし、他の球技をやっていた人たちであっても、高校生が到達し得る強さの限界値が大体わかるので、その範囲を逸脱し過ぎるとただのギャグ漫画になってしまうのです。
どんなに頑張っても、強さの限界値は今の日本代表レベルまでという制約がある状態です。
その範囲内で宮城県内の強豪を描かないといけませんし、全国大会もあまりに強い子達を描きすぎるとすぐに日本代表を超えてしまいます。
極めて制限の強いインフレ要素がある中で描ききらないといけません。
そう考えると、45巻まで書ききった著者の天才的な表現力によって支えられた作品です。
このように、少年漫画というジャンルでは、ギャグ漫画に走らない限りは、必ずと言っていいほどインフレ問題が発生します。
上手に引き伸ばせば、30~40巻くらいまでならインフレ要素だけで勝負できるのですが、すぐにピークが来るのです。
日本代表レベル、地球ぶっ壊せるレベル、宇宙壊せるレベルくらいまで来ると終わりです。
その限界値が大体約40巻くらいまでです。
もし、40巻以上の長期連載を志すなら、インフレ要素だけで勝負してはいけません。
その場合は、量産可能という要素を付け加えないといけないのです。
これを見事に解決した作品としては、ジョジョシリーズ(累計100巻超えているシリーズ)があります。
ジョジョの奇妙な冒険も、最初の頃はインフレしそうな要素で連載しておりました。
しかし、途中から「スタンド」という発明が生まれます。
おそらくこれは漫画業界に一つの革命をもたらした要素と言って良いレベルだと思っています。
詳しくは作品をお読みいただきたいところですが、ジョジョシリーズでは、それぞれの主要キャラクターにスタンドという特殊な能力が備わっています。
このスタンドというのは、持ち主の傍に出現してさまざまな能力を駆使して他人を攻撃したり、本人を守ったりする守護霊のような存在です。
したがって、どのような特殊能力を持ったスタンドを作り出すかという点で量産可能なのです。
そして、その能力をどう使うのかという点でインフレ要素を抑えることができます。
一見するととても弱い能力しか持っていないスタンドでも、使い方次第では強敵を倒せるというワクワクする展開を描けるのです。
マジで天才です。
ドラゴンボールが抱えていた「強さのインフレのピーク」という論点を見事に解決した作品だと思いますし、その後の様々な漫画作品に多大なる影響を与えた作品です。
この量産可能という要素をどう組み合わせるかが極めて重要になってきます。
実際の例でいうと、HUNTER×HUNTERの「念」が天才的発想と言っていいかなと思います。
スタンドほど無限ではないものの、かなりの数の能力を創作することができるので、ストーリーに大きな幅が出ます。
直近の例でいうと、呪術廻戦の「呪術」「領域展開」も素晴らしい発想でした。
論理を難しくしすぎたせいで、著者でも混乱するくらいの若干の矛盾や不都合が生まれていますが、それでも素晴らしい発想だったと思います。
今後もいくらでも発展させられるかなと思っていたのですが、別の要素で「インフレのピーク」が生まれてしまって、30巻という短命で完結しています。
ただ、この作品は後でいくつかのスピンオフが可能で、かつ、呪術及び領域展開という自由度の高い要素を持っているので、まだ遊びがあります。
あと10~20巻程度は番外編を描けると思うので、著者が金欠になったら戻ってきてくれるはずです。
いずれにしても、少年漫画というジャンルでは、要素の組み合わせが極めて重要です。
何を組み合わせてストーリーを創るのか、そしてインフレと量産どちらで戦うのか(もしくは両方やるのか)で連載の上限値がある程度決まってきます。
この組み合わせの数が、すでに上限に達しつつあると私は考えています。
全く新しい要素を組み合わせるということ自体は簡単なのですが、そのかけ合わせた要素を違和感や矛盾なくストーリーに落とし込むというのが極めて困難なのです。
私が好きな葬送のフリーレンでもこの難しさが発生しています。
この作品は、勇者一行が魔王を倒した後の世界を描くという極めて斬新なストーリー展開をしています。
しかも、長命のエルフ族であるフリーレンを中心に物語を展開していて、フリーレンが過去の仲間たちとの様々なストーリーを思い出しながら「今現在の冒険」を進めていくという複雑な時系列を持っています。
勇者一行が魔王を討伐したことも確定しているし、魔王討伐のために費やしさ期間も「10年」と決まっています。
つまり、極めて限られた期間の思い出だけしか描けないので、フリーレンが過去を思い出せば出すほど、既成事実が出来上がってしまって、次に思い出すストーリー次第では矛盾が発生しやすくなってしまうのです。
そうなると、最初の段階で緻密な10年分のストーリーを考えておいて、かつ、これから描こうとしている現在の冒険ストーリーも決めておかないといけません。
その上で、過去と現在をリンクさせて、どこの現在ストーリーで、どの過去のストーリーを思い出させるかを決めないといけません。
それをすべて矛盾なく、かつ、面白く描くというとてつもない難易度です。
仮に、過去の思い出を描くことを諦めて、現在の冒険にだけ集中したとすると、その時点からただのファンタジー冒険譚漫画になってしまって、他の作品との区別が付きづらくなります。
逆に、過去の思い出を描き切る事に集中すると、あっという間にストーリーが終わってしまって、連載終了となります。
どっちにしても、長く続けられるタイプの作品ではないなと思います。
結果として、現在も過去も完璧に描くしかないのですが、それを成し遂げるのは至難の業です。
私の頭脳では到底なし得ないことなので、尊敬しかありません。
ただ、やはりかなり難しいようで、休載が連発しています。
そりゃそうだと思います。
このように、現在の少年漫画の世界は、極めて困難なストーリーを書き切ることくらいしか道がないという飽和に近い状況にあると思っています。
進撃の巨人の著者のように、極めて緻密に描ききれるだけの頭脳があるなら良いでしょうが、普通は難しいです。
新しい手法や発明が出てこない限りはもう厳しいでしょう。
今後も、似たような漫画が似たようなストーリーで展開されて、すぐに終わるというケースが増えると思います(異世界系ではすでにそうなっている)。
そこに追い打ちをかけるように、少子化という深刻な問題が重なっています。
漫画をメインで消費してくれる子どもたちが少なくなっているので、漫画というビジネスそのものの市場が小さくなっていっているのです。
さらに、インターネットの発達が著しいせいで、ネット上に違法アップロードされた漫画が大量にあります。
読んでいる人が多くいても、著者に一円も行かないわけです。
これが蔓延すると、漫画家が漫画事業を続けられなくなっていくので、漫画家になるということ自体に合理性がなくなります。
そうやって優れた頭脳を持った作家たちが別の道に行くのです。
このような状況は今後も続くと思いますし、より悪化していくと予想しています。
少年誌が紙の媒体を無くしてオンラインのみにするという意思決定をいつしてもおかしくない状況です。
悲しいですが、私ごときの頭では解決策を思いつけません。
少しずつ少しずつ、漫画に触れる時間少なくなってきているので、このまま私の中で「漫画を読む」という習慣が自然消滅する前に、思っていることを書いてみた回でした。