見出し画像

【冒険小説】機動屋台Gバスター 第3話

母の夢

夢を見ていた。母をこの塔の中心に還した時の光景だ。母はずっと長い間病気にかかっていて、数カ月前に死んだ。「母さん」と僕は夢の中でつぶやいた。

「母さんはおんの胃の中におんねん」と誰かが言った。
「!?」
僕は跳ね起きた。そこは塔の通路の一角で、助けてくれた男の人は壁に寄りかかってすわっていた。
他には誰もいない。気のせいか。

「ありがとう助けてくれて」と僕は男の人に言った。「名前なんて言うの」
「こいつはな、マギーってゆーねん。おまえうなされておったで」
と別の誰かが言った。肩の上に乗ったハムスターだ。やはりこいつはしゃべるのだ。

リンがあらわれた。
「どうしたの?」と彼女は近寄ってきて言った。「いつまでたっても戻ってこないから、みんな心配していたよ」
「ごめん。…あ、そうだ食料を」
「私がもらってきたよ」といって彼女はクーラーボックスを開けて見せた。「ありがとう。実は嵐儔(ランチュー)に」
「え?もしかして地下へ行ったの?」
「そう、こいつを追いかけていったら」と言ってハムスターを指さす。「こいつしゃべるんだよ」
しかしハムスターは肩の上で毛づくろいをしており、ただのハムスターのふりをしていた。
「なにいってんの」

上級民とのコンタクト

塔の外では呉さんとゲンさんがGバスターの整備にかかりっきりだった。
「すまねえな」と父は言った。
「いいってことよ。Gの野郎、いつくるかわならないから、すぐに飛ばせるようにしておかないとな」と呉さんはもぐりこんだバスターのシャーシ下から言った。「それに、俺は、上のやつらは苦手だよ」とゲンさん。
「ああ、まかせろよ」

父さんは僕らを最下層民だという。危険な汚れ仕事を引き受けさせられる階級なのだと。僕たちがGと戦っているのは、上級層からの委託を受けてのことだ。

父と僕はネットワークを起動し、上級民たちを呼びだした。
「どうしました」とモニターに映ったのっぺりした顔の男がいった。こいつはボットだ。
「お疲れ様です。じつはGのことで相談したいことがありまして」
「どのようなことでしょう」
「物理法則を無視した攻撃をしかけてくるようになったんです」
「ガイドラインにある所定の項目についてトライなさいましたでしょうか」とボットは淡々と言った。
「はい」
「ご自身が薬物や疾病などで幻覚を見ていないと確認しましたか」
「はい」「ではサポートセンターに直接ご連絡してください」「どうも」
隣から見ていると、父が相当イラついているのが分かった。

「こんにちはセンターです」とやっと上級民がモニターに表れた。今度は色が浅黒い筋肉質な男だ。
「いつもありがとうございます」と言って父は、さっきの話を繰り返した。
「そうですかそれは大変でしたね。こちらでもデータは取っておりますので適宜対処いたします」
「私たちはどうすれば」
「必要な連絡がある場合はこちらからコンタクトいたします」
沈黙が流れた。
「ありがとうございます。では失礼します」と父が言い、モニターの電源を切った。
「どういうこと?」と僕は聞いた。「わかってるから余計な連絡はしてくるなってことだ」

屋台の集積場へ戻ると、マギーさんはGバスターの整備を手伝っていた。
僕はハムスターに、「さっきはどこへ行こうとしたの」と聞いた。
「上への通路を探そうと思ったんじゃ」
「上?何しに行くの」
「いろいろあってな」

僕はこの塔で生まれ育ったのだが、この塔のこともほとんど何も知らない。もちろんそれ以外の世界のことも。

「ねえ、君たちはいったいどこからきたの」
「話すと長くなる」
「ここをずっと歩いて行ったらどこへ着くんだろう」と僕は霧を見ながらつぶやいた。
「おまんはいろいろと考える人間じゃの」
「そうかもね」
「連れて行ってやろうか」
「どこへ?」
「世界の果てじゃ」

つづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?