トルコ旅行 Day8:オスマン帝国の宮殿めぐり 〜記憶と写真に残る風景〜
オスマン帝国の栄華を今に伝えるトプカプ宮殿
イスタンブールの丘の上に建つトプカプ宮殿。マルマラ海、金角湾、ボスポラス海峡の三方を海に囲まれた絶好のロケーションに位置し、約70万平方メートル(東京ドーム約15個分)という広大な敷地を誇ります。
最盛期には4000人もの人々が暮らしていたという宮殿で、まず私たちを出迎えたのは朝の撮影大会。"One Two Three!" "OK! Perfect!"と、正門前は早朝から観光客の声が飛び交っています。
首からライカをぶら下げている私に、数組のカップルから次々と写真撮影を頼まれることに。しかし実際に使うのは皆さんのスマートフォン。
それでも、せっかくの機会とばかりに"Nice smile!"、"Perfect shot!"と、すっかりノリノリに。横で見ていた妻からは「あなた馬鹿じゃないの?」と白い目で見られる始末。「いや、これこそ おもてなしの心。ベストを尽くす日本人の姿なんです」と心の中でつぶやきながらも、大人なので黙っておきました。
宝石が語るオスマン帝国の物語
宮殿内に入り、まず向かったのが宝物館。ここで出会った「スプーン屋のダイヤモンド」は、世界第4位の大きさを誇る86カラットの洋梨型の逸品。49個の古いマインカットのダイヤモンドが二重に取り囲む姿は圧巻でした。
このダイヤモンドには、いくつかの由来があるそうですが、一番有名なのは「3本のスプーン」との交換話。海岸で光る石を拾った貧しい漁師が、「ただのガラスだよ」と言われて3本のスプーンと交換し、それがスルタンの手に渡ったという物語です。
他にも、アリ・パシャの寵姫の持ち物だったとか、ナポレオンの母がフランス軍将校の解放と引き換えに贈ったなどの説もあるそうです。しかし、やはり「3本のスプーン」説が一番心惹かれます。些細な偶然から歴史が動くという物語の不思議さが、このダイヤモンドの輝きをより一層魅力的なものにしている気がします。
幻のハーレム
事前に「オスマン帝国外伝」を見て予習していただけに、今回ツアーの都合でハーレムを見学できなかったのは心残りでした。
300以上の部屋、9つの浴場、2つの礼拝所を備え、最盛期には1200人以上の女性が暮らしていたというハーレム。その内部には、「黄金の道」と呼ばれる回廊や、スルタンの母后「ヴァリデ・スルタン」の豪華な居室、美しいタイル装飾で彩られた「お気に入りの妃たちの部屋」などがあったと言われています。
歴史の教科書では触れられない、オスマン帝国の政治と権力の中心であり、かつ最も神秘的な場所。次回イスタンブールを訪れる機会があれば、ぜひ第一の目的にしたいと思います。そのときは、歴史書やドラマで予習を重ねて、より深くハーレムの世界を理解できるようにしておきたいです。
グランドバザールでの思わぬ出会い
「あれ?この人どこかで...」 グランドバザールで目に入った蝋人形。なんと「塩振りおじさん」こと「ヌスレット・ギョクチェ」氏ではありませんか!SNSで世界的に有名になった彼が、実はトルコの方とは知りませんでした。
世界中の食通を魅了する彼の名店「Nusr-Et」も、実はこのイスタンブールが発祥の地。その独特な塩振りパフォーマンスは、まさにトルコの陽気さとショーマンシップが生んだエンターテインメントだったのですね。
バザール前の広場では、妻がトルコアイスに挑戦。「はい、どうぞ~」と差し出されたアイスを取ろうとすると、クルクルッと棒が回って...。
「あれ?」妻が手を伸ばすたびに、アイスはまるでマジックのように宙を舞います。
周りの観光客から笑い声が起こる中、妻は何度も何度もアイスに手を伸ばしては空振り。やられることはわかっているはずなのに、妻の困惑した表情と売り手のおじさんの茶目っ気たっぷりな笑顔のコントラストが絶妙でした。
この楽しいやり取りの様子は、下のショート動画でもご覧いただけます。
露店の山積みされた栗に目が留まりました。寒くなってきた季節にぴったりの街角の風景。
ホクホクした天津甘栗を期待して購入しましたが、見た目こそ立派なものの、中身はパサパサで甘みもなく、期待を裏切られる結果に。売り子の豪快な手さばきに惹かれて買ってしまいましたが、こればかりは日本の天津甘栗に軍配を上げたいですね。
ドルマバフチェ宮殿 〜記憶に刻む美しさ〜
19世紀半ばに建てられたドルマバフチェ宮殿は、オスマン帝国が西洋文化を取り入れた象徴的な建造物です。ヨーロッパの様々な建築様式を取り入れた外観と、豪華な内装は、まさに東西の美の競演。クリスタルのシャンデリアが輝く広間、金箔で彩られた天井、手織りのシルクのカーペット。どれもが息を飲むほどの美しさです。
重さ4.5トンという世界最大級のクリスタルシャンデリアの下に立った時は、思わず足が止まりました。見上げると、無数のクリスタルが星空のように煌めき、まるで光のシャワーを浴びているような感覚に。
ただ館内撮影禁止のため、この豪華絢爛な世界は目に焼き付けることしかできません。しかたなくスマートフォンのない時代に思いを馳せ、じっくりと観察することに。
すると、シャンデリアの一つ一つのクリスタルの輝き方や、天井の金箔の細かな模様、カーペットに織り込まれた精緻な文様など、普段なら写真を撮るだけで済ませてしまいそうな細部の美しさに気づかされました。この「記憶に刻む」という古い作法は、意外にも私に新鮮な発見をもたらしてくれたのかもしれません。
そんな撮影禁止の宮殿で、皆が行列する撮影スポットが「ボスポラス海峡への門」。
かつては外国の使節たちが船で訪れた正面玄関が、今は観光客お気に入りの撮影場所に。門のフレームから覗くボスポラス海峡の景色は、まさに額縁に収められた一枚の絵のよう。オスマン帝国の皇帝たちも、きっとこの景色に魅了されていたに違いありません。
ガラタ橋の夕暮れ
一日の締めくくりは、ガラタ橋の下でのディナー。ボスポラス海峡に映る夕陽と、次々と灯りをともすモスクのシルエットを眺めながらの食事は格別でした。
ガラタ橋の下でのディナーを楽しんだ後、ツアーの皆さんはホテルへと戻られました。しかし、私たち夫婦は夜のイスタンブールにまだ未練があったので、オレンジ色の街灯に照らされた石畳の路地を、ガラタ塔を目指して歩くことにしました。
夜風に吹かれながら眺める、ライトアップされた街並みの物語は、また次回に。