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ホーチミンの日本食探訪 ~個人店で味わう確かな味~
ホーチミンといえばフォーやバインミー。
本来ならそんなベトナム料理を堪能すべき場所です。
でも今回、私たちが通い詰めたのは、宿泊先のLa Opera Saigon Hotelから歩いてすぐのレタントン・エリアの日本人街にある日本食レストラン。
それは近所だから妥協したわけではなく、ここには日本人が丁寧に営む店が並んでいて、初日に何気なく入ったお店で、期待をはるかに超える味との出会いがあったのがきっかけでした。
そこで、今回の滞在で訪れた中でも特に印象に残った3軒の店を紹介したいと思います。
餃子とやきめしの黄金コンビ ~「餃子のチカラ」~
まず最初に訪れたのは、「餃子のチカラ」。店名に込められた意気込みに惹かれて入店したのですが、これが大正解でした。
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注文したのは餃子とやきめしのセット(18万ドン=約1,100円)。薄皮から溢れ出る肉汁と、カリッと焼かれた皮の食感が絶妙なバランス。やきめしは中華鍋の遠火で丁寧に炒められた証、パラパラの粒々が光ります。
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一緒に来た仲間たちはチキン南蛮タルタルセットなど別メニューを注文していましたが、それぞれに満足げな表情。特に印象的だったのは店主の方の人柄です。一見強面に見えるのですが、声をかけるととても気さくで優しい。その笑顔を撮影させていただいた一枚が、まさにこの店の雰囲気を物語っています。
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翌日、私たちは迷わず再訪。今度は全員で冷やし中華を注文しました。クラゲのコリコリ感、ざく切りのチャーシューの食感と焦げ目の旨み、錦糸卵とキュウリの彩り。そして全体を包み込む特製タレの味わい。これはもう、リピート確実の一品です。
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ホーチミンで元祖台湾ラーメン ~「味仙」~
今回の旅をアテンドしてくれたのが岐阜出身の方。「実は名古屋に本店がある有名店の味が、ここホーチミンで楽しめるんです」という言葉に興味をそそられ訪れたのが「味仙」でした。
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店内の説明によると、この台湾ラーメンは名古屋生まれの一品なのだとか。元々はまかない料理として作られていたものが、やがてメニューとして定着したそうです。
この店の面白いところは、辛さの段階設定。ノーマル、アメリカン(辛さ控えめ)という普通の表記に加えて、ちょっと悪ノリ気味なネーミングが並びます。辛さに自信のない私は無難にノーマルを選択。
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それでも、最初の一口で「おっ」と声が出ました。辛いスープと肉味噌の旨味が絶妙なバランス。そして何より、その辛味と旨味を纏った中太麺の食感が最高です。箸が止まりません。
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まさかホーチミンで元祖台湾ラーメン(しかも名古屋発祥)にハマることになるとは。これは確実にリピート確定の一品です。
予想を超えたとんかつのクオリティ ~「日本の定食屋 FUJIRO」~
最後は「日本の定食屋 FUJIRO」。
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実は、とんかつへの期待は控えめでした。というのも、香港では最近、とんかつの価格が高騰していて、安くても3,000円、高級店では5,000円近い価格設定。
それに比べると、ここのロースとんかつ定食は16万5千ドン(約1,000円)と、価格だけ見ると不安になるほどのコスパの良さです。
しかし、その不安は最初の一口で吹き飛びました。私が選んだのは、ロースとヒレカツの乗ったカレー(16万ドン)。衣のサクサク感、中の肉のジューシーさは申し分なし。カレーも美味しく、牛スジの食感も確かにいいのですが、正直なところ、とんかつと合わせるなら牛スジは無い方が良かったかもしれません(笑・あくまで個人の見解です)。
それでも、全体的な満足度は香港の高級店を上回るほど。こだわりが感じられる一皿でした。
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まとめ ~ホーチミンB級グルメの真骨頂~
ホーチミンの日本食、とりわけB級グルメの充実ぶりには目を見張るものがありました。香港にも吉野家やすき家、スシローといった有名チェーンはありますが、ホーチミンの日本食には決定的な違いがあります。
それは、日本人が現地で自ら店を開き、心を込めて料理を作っていることです。
たった3、4日の滞在でしたが、その違いは明白でした。大資本のチェーン店とは異なり、ここでは料理に手作りの温もりが感じられました。ホーチミンで出会った店々は、どこも料理人の思いが伝わってきました。餃子のチカラの薄皮餃子に込められた職人技、味仙の台湾ラーメンに感じる本場へのリスペクト、そしてFUJIROのとんかつに宿る真摯な姿勢——どれも、日本人の食文化へのこだわりを感じさせるものでした。
実は、30年前の香港にもこうした個人経営の日本食店が数多くありました。しかし、地価の高騰とともに、それらは次第に姿を消し、大資本のチェーン店が取って代わっていったのです。昔の香港を知る者として、ホーチミンのこうした食文化が末永く続いてほしいと願わずにはいられません。
手頃な価格でありながら、妥協のない味。それを支えているのは、経営者自身が店に立ち、お客様の表情を見ながら試行錯誤を重ねているからでしょう。こうした小さな店が、大資本の波に押し流されることなく生き残ることができるのか——その行方を応援したいです。
そして、ホーチミンにはまだまだこのような日本食の名店があるはずです。次は、どんな味に出会えるのか。その期待を胸に、また近いうちに、この街を訪れたいと思います。