自分のためにぬいぐるみを買う大人
「ぬいぐるみ、欲しいなあ」
ある日の晩、翌朝のために目覚まし時計をセットしながら、ふいにそう思った。
最初は「ふわふわした何かに触れたい」という感覚だけだったのに、気付けば「ぬいぐるみが欲しい」という具体的な欲が芽生え始め、いよいよ無視できなくなっていた。
ふだんからカバンの中に忍ばせておけるくらいの手のひらサイズで、白くてふわふわなぬいぐるみ。外出中、しんどい……となった時にそっと触れて心を落ち着けたい。
想像すればするほど、いい。
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少し話がそれるが、私にとってTwitterはより生々しく新鮮な情報が手に入る検索ツールなので、何か気になることがあればすぐに立ち上げてしまう。
さっそく「ぬいぐるみ 白」「ぬいぐるみ 大人 シンプル」などと打ち込んでみた。
そこで出会ったのが「おばけちゃん」だった。
一瞬で心を奪われてしまった。
ひとめぼれってやつだ。
真っ白ふわふわボディに黒ゴマのようなチャーミングな目。シンプルなビジュアルだけどよく見ると絶妙なフォルムをしている。
みぞおちのあたりがきゅんとする。苦しい。
しかし、購入ページに飛んでみると「完売」の文字が……。一瞬あきらめかけたが、ふと見ると「Coming soon」というポップが付いている。
どうやら数日後に再販されるらしい。
これは運命だ。
そんなこんなで我が家にやってきたおばけちゃん。
ふわふわだ…… かわいい……
サイズはちょっとしたポメラニアンくらいあるので、当初イメージしていた「持ち歩いて時折触れて癒されたい」を叶えるには少々大きめのワガママボディである。
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今回、ぬいぐるみについて調べているときに初めて知ったのだが、世の中には「ぬいぐるみセラピー」なるものがあるらしい。
ふわふわで柔らかなものに触れることで幸せホルモン “オキシトシン” が出る。すると、ストレスや不安感を軽減につながり癒しを得ることができるそう。
私の「ふわふわした何かに触れたい」という気持ちは、日々のストレスや疲れを癒したいという無意識の欲求の現れだったのかもしれない。
それともう一つ、ぬいぐるみについて調べているなかで気になるトピックが出てきた。
それは「ぬいぐるみを持ち歩く大人の心理」というもの。
まさに私が目指そうとしている姿ではないか!ということでいろいろ情報を漁ってみると、これがけっこう賛否両論あるらしい。
「大人なのにみっともないし痛すぎ」「いい歳して恥ずかしい」「男が持っていたら引く」というネガティブなものから、「大人も子どもも関係ない」「個人の自由だからいいのでは?」「これも多様性の一つ」という肯定的なものまでさまざま。
ぬいぐるみと一緒に旅行したりお気に入りのアクスタをイベントに連れて行ったりしている方々の様子をSNSでよく見ていたので、こういうのはごく一般的な文化なのかと思っていた。
でも、否定的な意見を読んでいると「なるほど、一理ある」というものもあったので、私個人としては周囲への配慮を忘れず、みんなが快適に過ごせるやさしい世界を目指そうではないかと思った。
たとえば、外出先でぬいぐるみを出すときは周囲に迷惑をかけないとか、あまり大きすぎる子は連れ歩かないとか、友人や家族にもかわいがることを強要しないとか、そういうものだ。
今回迎えたおばけちゃんは、サイズ的に連れて歩くのは難しい。
ということで、引き続き手のひらサイズのぬいぐるみを探す旅は続きそう。いつかまた運命の出会いがありますように。