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「数の攻め」が基本です

クラウセビッツによれば、戦略の第一の鉄則は、まず全体として、次に決定的な部分において、可能な限り強力であることである。そこから導かれる第二の鉄則は、適切な時期に、適切な場所で、適切な目標を持って、適切な敵に対して、戦力を集中させることである。

『新時代「戦争論」』マーティン・ファン・クレフェルト著(p.159)

みなさん戦略とは何か、真剣に考えてますか? 私は考えてなかったです。普通ないと思います。

どうも、といとというものです。
戦略と戦術の違いって、ビジネス書かいわいでちょくちょく出てきますし、将棋でも必要そうですよね。チェスだと、用語として定着しているっぽいですし。ネットから拾ってきたチェス本をせこせこ読んでいますと、たいてい戦略の重要性が説かれてるっぽいです。
ほかにいくつか軍事関係の本を読んで、自分でも考えてみまして、結果、以下のような結論に至りました。


将棋にはなくてもいい。


一般的な文脈では戦略とは戦力の運用を指します。適切な運用が大事である。そうですね、同意します。「適切な時期に、適切な場所で、適切な目標を持って、適切な敵に対して、戦力を集中させることである」、そうでしょうとも。しかし、その適切な運用ってのがどうなのか、どうすれば自分でもできるようになるを知りたいからムズカシイ本をわざわざ読んでいるのに、個々の事象は触れられないで終わっちゃいます。
チェスみたいに、体系化されていて、共通理解が出来上がっていると違うのでしょうけどね。将棋については無理に導入しなくてもいいと思い直しました。

あとは戦略と戦術の違いを長期的ゴールと短期的ゴールの違いだと説く教えもあります。一理はあっても、目標達成に対する長さは各戦略、戦術に固有でしょう。数手で実現する短期的戦略もあれば、数十手かかる長い詰みもあります。戦略とは何かを問う行為とは別の言葉遣いで行われるべきと私は考えます。同時に、目標に対してミクロな視点でアプローチするか、マクロな視点でアプローチするかは着手決定に影響を及ぼすとも考えています。

けっきょく、戦略とは、リソースの配分と、目標の数です。これだけで、将棋に関しては、たぶん語りつくせます。

というわけで、戦略について語っていこうと思っていたのを省略して、「数の攻め」をミクロ、マクロの視点から紹介したいと思います。

将棋には「数の攻め」という将棋用語があります。駒の数において有利な状態のことです。サッカーとかで使う「数的優位」と置き換えたほうが、想像しやすくなるでしょうか。単純に考えて、攻め駒が相手の守り駒より多ければ攻めが成功するし、相手の守り駒より少なければ失敗します。例外は多々ありますが、戦略や計画を考える上で、基本となるセオリーです。
基本があれば応用がある。数的優位を複数の見方ができるかで、作戦立案の幅が広がってきます。局所的な駒の配置と全体的な劣勢・優勢の2つの視点が共存可能で、trade-offの関係にあることも多々あり、状況判断が難しくなることがあります。

今回はちょっとした応用の1例まで。駒落ちの場合を例に考えてみましょう。下の8枚落ちの図を見てください。棒銀に対して、ちょっと変わった受け方をされました。どうやって攻めるか、考えてみてください。

8枚落ち棒銀の図。あなたならどう指す?

数的優位の観点から、三段階で局面を認識、着手を提案します。こちらの想定するレベル3を当てられたら、めちゃ強です。

レベル1(8級レベル?)
まずは、局所的な見方だけで判断します。
棒銀は「銀を前に進めて交換できれば成功」の戦法です。前に進めるか確かめたら、2四に銀を進めて交換できそうだと気づけるのではないでしょうか。先手の攻め駒は2枚、相手の守り駒は1枚です。

2四に数的優位があり、銀を進められる。

▲2四銀とすれば△同金▲同飛△2四歩▲2八飛という手順が予想され、金と銀の交換になります。攻め方有利な交換です。将棋教室なら10級から8級くらいの棒銀を教えている相手なら、よくできたねとほめる手順です。
ちなみに駒交換の評価について補足しておきますと、金と銀はどちらも2点の同価値ですから、「攻め駒と守り駒の交換は攻め側が得」というセオリーで得と判断します。私の本でも、何度か出てきているから読んで(ダイマ)。
初心者であればこれが得と判断できれば十分なのですが、今回はもっとレベルを上げて、欲張ってみましょう。

レベル2(5級レベル?)
駒交換以上の戦果、敵陣に侵入する手順を模索します。三段目である2三の地点までは突破しないといけません。そうなると、3二玉も考慮に入れる必要があります。相手の守り駒が1枚増えて、2対2の戦力と見えるかなと思います。

広く見れば2対2の戦力

同じ物量では倒せません。マクロな視点から、数的優位を作り直しましょう。教室で教えていたのは端攻めで、1筋の歩を突いて1九香を使っていきます。

▲1六歩△6五金▲1五歩の進行。▲1四歩を狙う


次に▲1四歩△同歩▲同銀から、1筋突破をできそうです。隣の筋を突破できると、自然に隣の筋への攻め駒を増やせます。具体的には、▲1四歩△同歩▲同銀△同金▲同香から▲1三香成~▲2三飛成の狙いとなります。▲2三飛成とできれば2筋突破といえるでしょう。
8枚落ちの手合いでは勝てないと感じる手順で、5級くらいならできてほしいイメージでしょうか。

レベル3(初段レベル?)
初段並、それも攻めっ気の強いタイプなら、もっと素早く潰しにかかります。どんな攻め方でしょう?

▲2四歩△2二金▲3四銀の手順

最初の図を見て、角が利いている感触があったでしょうか。角の利きがもっと強くすれば突破できそうだと仮説を立てられればしめたもの、その手順を探しましょう。

▲2四歩と打って△2二金と引かせれば、広くは3対2の数的優位ができました。反面戦場が1マスずれてしまいます。2三の利きは相手が多いため、ミクロの視点では損な手です(攻めが重いといわれます)。これだけでは損得微妙ですが、次の▲3四銀を見つけていれば万事解決。この手が好手で先手成功といえます。
▲3四銀までの図を見て、よーく咀嚼してください。△同歩と取らせて、▲2二角成△同玉▲2三歩成で、2筋を突破できます。というか詰みですね。数手かかる手順ですが、ほかの対応も先手がよくなります。角を生かそうと考えていないと、▲3四銀という手が見つけられないのではないでしょうか。

もしプロが最初の図から指し継ぐとしても、レベル3の▲2四歩△2二金▲3四銀と指すと思います。


数的優位は、平手の実戦でうまく使うのも難しいですけど、攻めていったのにどうすればいいか分からない、または失敗してしまった時には、ていねいに数的優位ができているのか確認してみてください。きっと気づきがあるはずです。

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