出し抜けに、明るく、軽やかに。ヤユヨ「さよなら前夜」を聴いた。
25年前、夏の日、四畳半
紛れもなく別れの曲なのである。
出し抜けに明るい音を鳴らして軽やかに始まるこの曲「さよなら前夜」のことだ。
MVにデカデカと踊る文字を見てもそうだ。
もう
この部屋に来ることは
ないかもしれないと
思ってしまった
そうだ、これはあれだ。あのことを歌ってるに違いない。
*****
真夏の午後の日差しがカーテン越しでも容赦なく降ってくる四畳半。
ルームシェアといえば聞こえはいいが、会社が借りあげた3LDKのごく普通の一軒家で、ぼくらは1人1部屋づつあてがわれて住んでいた。
ぼくは彼女とのその日3度目のセックスを終えて、まどろみと現実の狭間を行き来しながら、汗ばむ身体をタオルケットに包んでいる。
気を遣って出かけてくれた同僚たちに感謝しなきゃな…なんて靄がかかった脳みそに浮かんでは消えて。
ふと顔を上げると、お姉さん座りをして化粧を直す彼女。
床は畳敷き。
帰るの?
うん、また来るね。
約束とも呼べないそんな他愛もないやりとりにすっかり安心して、ぼくは再びまどろみの中に溶けた。
そして、“また”は二度と来ることはなかったのだった。
はたまたこんなことだ。
*****
彼女が去った後のカフェで、ぼくはたった7日前のことを思い出す。
一緒のボックス席に乗っている友人カップルを気にして、ぼくは隣に座った彼女の横顔を窓越しに盗み見る。
ふと、窓の中の彼女と目が合う。
少し照れたような笑顔を浮かべながらぼくの脇腹を肘でつつくと、彼女はきれいな声で笑った。
向かいに座る友人たちもそれを見て楽しそうに笑っている。
帰りの新幹線の中までも、はしゃぎすぎたテーマパークの余韻が残っているような、そんな時間だった。
もう好きじゃなくなっちゃった。
涙をひとつこぼして見せてそう言うと、彼女は席を立って店を出ていった。
ぼくは引きつった間抜け面でそれを見送るしかなかったけれど、ドアのガラスに映った彼女が、すっきりとした笑顔を浮かべていたことだけは、ちゃんと見ていたんだ。
ひとつ息をつくとカラカラの喉にカフェオレを流し込む。
ひどく苦く感じて、慌てて今度は水を飲み、天を仰ぐようにソファの背に身体を預ける。
素朴な店の天井が、ミラーボールで照らされたように光り輝いて見えた。
…などとそんな青春が筆者にあったかどうかは横に置くとして。
つまり鈍感なのだ、ぼくも、あなたも。
驚くほどに。
そして事態は気付かぬうちに進行し、取り返しのつかない段になって初めてその姿を目にして、ぼくらはひどく打ちのめされる。
そして彼女たちはそんなぼくらを後目に、あっという間に飛び去って行くのだ。
洗い髪の残り香のような、少しの切なさを振りまいて。
出し抜けに、飛び切り明るい音を鳴らして、軽やかに。
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え? 残されたぼくらはって?
毎回一限寝坊してそう(このコメに100万いいね押したい)なヴォーカルの子に、そんなこと言ってるからダメなんだわ!って怒られるだろうね。