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石ころサッカーの才
小学生の頃、私は「サッカーの天才」だった。……いや、正確に言うと、「石ころサッカー界の天才」だ。なぜなら毎朝、通学路でお気に入りの石ころを「相棒」に見立て、友人たちと一緒に蹴りながら登校するのが日課だった。
ゴールポストは校門前の側溝。家から学校までをひたすらドリブルし、最後に石を側溝へ「シュッ」と蹴り込む。これが最高に気持ちいい。特にラストシュートを遠くからズバッと決めたときは、友人たちが「おお〜!」と歓声を上げてくれる。私はガッツポーズを決め、「これがプロの蹴りだ」と自画自賛していた。
もちろん最初は下手くそで、石ころは車道に転がったり、どこかに消えたりしていた。しかし、日々の鍛錬で驚異的な成長を遂げた私は、数週間後には家から校門前まで石を一度も失わずにゴールできるようになっていた。
最初は数人だったこの「石蹴りサッカー」も、やがて参加者が増え、日によっては小規模なリーグ戦のようになった。
そんな楽しい日々を半年近く続けたある日、事件は起きた。
9月の終わり、台風が直撃し、午前中で授業は打ち切られ、全校生徒は帰宅することになった。先生が先導する集団下校で、私は「いつもの校門から帰る」と当然のように思っていたのだが——。
「今日は正門からは帰れません」と先生が告げた。
「なんでですか?」と尋ねると、先生は少し困ったような顔でこう言った。
「台風で雨がすごくてね。校門前の側溝が水で溢れてるんだよ」
そのときの私は「家が遠回りになるのが面倒だなぁ」と思っただけだった。確かにいつもの校門前は湿気ていて、水はけが悪い場所だった。でも、大人になった今、ふと思うのだ。
あれ……って、もしかして……。
——私たちが毎日蹴り込んでいた石が側溝に詰まって、排水をせき止めたんじゃないか?
思い返してみると、私と友人たちは半年近く、日々かなりの量の石を側溝に蹴り込んでいた。石の数を総計すると、数十個どころか数百個……いや、もしかすると千個超えもあり得る。
今、その小学校の校門はきれいに整備され、水はけも良くなっている。真相を確かめる術はないが、当時の工事に関わった人はきっとこう思ったに違いない。
「どうしてこんなに石が詰まってるんだ!? 誰だ、こんなイタズラを……!」
大人になった私は心の中で手を合わせる。
「……ごめんなさい。石ころサッカーが楽しすぎて、やりすぎました」
そして今でも、道端に転がる石を見ると、つい軽く蹴って端へ寄せてしまう。
それは「誰かが躓かないため」……なのだが、なぜか私の蹴った石はいつも綺麗に端で止まる。
あの頃の経験がまだ生きているのかもしれない。
ただひとつ、もう側溝には蹴り込まない。