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MIT Climate & Energy Prizeについて(前編)

今回は、私がMITで2年間のMBA留学中に企画・運営してきたClimate & Energy Prize(CEP)というアクセラレータープログラムが無事に終了しましたので、その振り返りをしつつ、MITを中心とした米国スタートアップエコシステムについて記載します。


MIT Climate & Energy Prize (CEP)とは

MITでは、身近なクラスメイトがDeep-tech分野で起業していく例は複数あり、かつ在学中に数千万円以上の資金調達に成功しているケースもありますが、CEPは、そうした学生起業家に資金を提供するプログラムの一つです。

MITには、起業のフェーズに応じて多数の支援プログラムがありますが、CEPはアクセラレーションあたりのフェーズにあるClimate-tech分野のスタートアップを対象に、資金・メンタリング提供を行なっているプログラムです(下の画像でApplicationの後半に電球マークの記載があるのがCEP)。


MITの起業家支援リソース(出典:MIT Martin Trust Center

CEPは、2008年にMITのBill Aulet教授とTod Hynes氏が共同創設して以来、過去16年間で、計850の学生チームに対して、累計350万USドル(約5億円)の資金提供を行い、実際に200社以上のスタートアップ企業を輩出してきました。CEPの特徴の一つが、対象がMITの学生・技術に限定されていないことです。昨年までは米国・欧州の学生であれば誰でも応募ができました。そして、これらのスタートアップ企業のその後の累計資金調達金額は、約18億USドル(2,700億円)にものぼります。規模の参考までに日本国内のClimate-tech投資額(資金調達金額)は2023年度が984億円(Climate Tech Japan調べ)でした。
そして、CEPは私のようなMITの学生(MBAなど大学院生が中心)が運営しているのもポイントです。現在CEPは私を含む3人のManaging Director、19名のVPで構成されています。

なぜCEPの運営に挑戦したか

そんなCEPに何故私が関与したかについては、いくつか理由があるのですが、①スタートアップ企業が多数輩出されていて、②日本を含む大企業・投資家との連携へのポテンシャルを感じたというのが、挑戦してみたいと思った主な理由です。

CEPから輩出された数々のスタートアップ

過去16年間で、エネルギー、電力、グリーン水素製造、水素貯蔵、グリーンアンモニア、二酸化炭素回収(Direct Air Capture)、サーキュラーエコノミー、農業など、多岐にわたるClimate-tech分野で多くのスタートアップ企業を輩出していますが、以下のような上場・M&Aに至ったケースもあります。

SES AI(NYSE: SES):2012年創業(同年にCEPに参加)、MITからスピンアウトした車載用リチウム金属電池メーカー。2022年にNY証券取引所に上場を果たし、現在主流のリチウムイオン電池より軽量・小型化が可能な次世代電池の量産化に向け、米GM、ホンダ、韓Hyundai、韓Kiaといった大手自動車メーカーと共同研究開発中。

Solstice Power Technologies(三井物産):私が留学中のMIT Sloan School of Managementの卒業生が2016年に創業(翌年にCEPに参加し優勝)したコミュニティソーラー関連のスタートアップ企業です。建物環境・経済的状況から屋根置きソーラーパネルを設置できない住民・企業向けに太陽光パネルをコミュニティで導入する手続きの効率化・操業状況の管理ができるソフトウェアプラットフォームを開発しており、2022年に三井物産グループが同社を買収しました。

上の例はいずれもMIT発ですが、MITがこの分野に強い一つの要因は、アントレプレナーシップ教育が盛んで、起業に関する授業が数多く存在し、学部生・MBAを含む大学院生・PhD生が、そうした授業を通じて、起業に必要な知識・ネットワークを得られる環境が整っているからかもしれません。例えば、CEPを創設したTod Hynes教授は、クリーンテックやエネルギー分野に特化した「Climate & Energy Ventures」という授業も教えており、同分野での起業に必要な知識や学生のネットワーク構築の支援をしています(この授業については別の機会に詳しく書きたいと思います)。

資金を出しているのは民間企業・政府機関

CEPに参加するようなスタートアップは、ディープテックが中心となるため、技術リスクが高く、設備投資含め多額の資金が必要になるCapital Intensive(資本集約的)なビスネスが多く、逆にいえば、だからこそnon-dilutiveな(既存株主の持分が希釈しない)資金を上手く活用してスケールさせていくのが効果的な分野と言えます。

こうした背景から、米国では多くの大学でクリーンエネルギー関連の"Grant"や"Prize"が、クリーンテックの最初のバブル(所謂クリーンテック1.0)の2000年代前半に設立されましたが、その後バブルが弾けて多くの企業が死んだ2011年頃や、コロナ禍の2019-2020年頃を含め、現在まで毎年一貫してスタートアップ支援を行ってきた唯一のプログラムがCEPです(他大学では廃止または一時中断していた年があると理解しています)。

その資金の原資となるのは、実は大学の予算ではなく、米国の大手民間企業(例えばシェブロン)や政府機関(例えばマサチューセッツ州のクリーンテック普及を目的とした同州政府機関Massachusetts Clean Energy Center)によるスポンサーシップで成り立っています。各社・各機関の狙いは様々ですが、ESGへの取り組みのPR、イノベーション探索のために大学発スタートアップとの接点創出、将来の投資の芽や技術動向の把握など。CEPでは、そうした資金を動員しつつ、学生の起業支援を行っています。

グローバルな観点からのポテンシャル

私がCEPのことを知ったのはMBA入学当初の2022年秋ですが、その内容を知るにつれ、単なる賞金を供与するピッチコンペに留まらず、実際にディープテック分野の大学発スタートアップが多数生まれていて、大企業等が資金を提供している「プラットフォーム」的な存在である点に興味を持ちました。また、実際にCEPのイベントに参加してみたところ、CEPを卒業した起業家、スポンサー企業等、ピッチ選考過程で関与する投資家(VC、CVC、エンジェル投資家など)といった大学内外の専門家がネットワーキングする場として「エコシステム」が形成されている点が印象的でした。

そして、更に日本企業・投資家のような(米国から見た)海外プレイヤーを巻き込む、日本の学生起業家も応募できるよう門戸を広げる、といった様々なポテンシャルがあると感じたので、CEP 2024のManaging Director(運営責任者)に応募し、MBAの傍で、約1年弱の間、Managind DirectorとしてCEPの運営に携わってきました。

CEP 2024で実際に何を行ったかやその成果については次の記事で書きたいと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました!


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