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とうほく未来Genkiプロジェクト2024/総括フォーラム採録 vol.2

東北七新聞社協議会主催の「とうほく未来Genkiプロジェクト」の総括フォーラムが11月24日、仙台市青葉区の仙台国際ホテルであった。

「奏でる東北」をテーマにした基調講演やパネル討論で、東北の高い潜在力を掘り起こし、発信する方策を探った。会場ロビーでは、7社が制作した本年度のプロジェクトの特集紙面パネルが展示された。

今回は、基調講演 第二部をご紹介。

◎基調講演/柚月裕子氏
作家の柚月裕子氏は「魅力ある東北―食・文化・風土」と題し、司会者との対談形式で基調講演した。要旨は次の通り。

 作家デビューは40歳の時。それまでは育児や家事でずっと家にいて、旅行も数えるくらいしか行かなかった。デビュー後は多くのものを見て、学び、見識を聞こうと外に出るようになった。
 小説を書く時はモデルとする土地に最低3回は足を運び、独特の言葉や郷土料理に触れる。必ず立ち寄るのは地元のスーパー。置いている食材が違うし、その土地に根付く文化とか土着的な風習を感じられる。
 東北は真摯な土地。真面目というかひたむきだ。そして、すごく五感を刺激してくれる。風の薫りやお日様の暖かさ、もちろん味覚も。空気が冷やっとして背筋が伸びる。寒いからこそ、家の中に入った時のほっとする暖かさを感じる。心や感性を豊かにしてくれるものがたくさんある。
 南部鉄器の工房を題材にした最新刊「風に立つ」(中央公論新社)で、初めて故郷の岩手県を舞台に書いた。細やかな工程を重ねて完成する南部鉄器は、人間関係に似ている。丁寧に作り上げ、時には失敗する南部鉄器と、家族の関係性を重ね合わせて描きたかった。
 
 東日本大震災で岩手県宮古市に住んでいた両親を失った。震災の1週間後、実家があったと思われる場所で父の机を見つけた。引き出しの中に、新聞の書店売り上げランキングで私の作品が何位だったかを書いたメモがあった。私は父が大好きで、人生の指針としていた。船で言うなら羅針盤。照れ屋で褒めることをしない人だったが、メモを見つけて喜んでくれていたことが分かった。
 何年か後、仕事で釜石市を訪れた時、空き地と新しい建物が混在する街の風景の中、晴れ着姿の女性とスーツを着た青年が楽しそうに笑う姿を見かけた。その日は成人式。そうか、しっかり時間は過ぎているんだと思った。
 あの時、いろいろな思いをした子が成人し、かなわなかった子の分も背負って生きていく。私も前に進まなくては駄目だと思った。それまで震災に絡む小説を書こうとすると津波や地震の夢を見ていたが、勇気づけられてペンを取った。それが来年2月に新刊で出る。
 今の時間と、3・11で止まったままの時間が自分の中には流れている。二つの距離はだいぶ縮まった。いつ重なるかは自分にも分からないが、きっといつか重なってくれると思う。

柚月 裕子 (ゆづき・ゆうこ) 
2008年「臨床真理」でデビュー。13年に「検事の本懐」で大藪春彦賞、16年に「孤狼の血」で日本推理作家協会賞を受賞した。JR東日本発行の「トランヴェール」で巻頭エッセーを連載中。56歳。岩手県釜石市出身、山形県在住。

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