縁もゆかりもなかった都路が、わたしの第二の故郷になった理由
みやこじ【福島県田村市都路町】
福島県中通り地方の阿武隈高原に位置する田村市都路。小さな町ですが、豊かな自然、美味しい食ベ物、そして温かい人々といった様々な魅力がぎゅっと詰まっています。
記念すべき第一回目の東北観光百科を書いてくれたのは、きっかけ食堂東京メンバーの佐伯真凜ちゃんです。
東北の中でも、都路は観光地として名前を聞くことはなかなかありません。まりんちゃんが第二の故郷とまで話す都路には一体どんな魅力があるのでしょう...!
きっかけメンバー佐伯真凜のありのままの東北旅
こんにちは!きっかけ食堂東京メンバーで、立教大学3年の佐伯真凜です。
突然ですが、皆さんには“第二の故郷”と言える場所はありますか?
いつでもふらっと訪れて「ただいま」と言えるような、そんな場所です。
私にとっての“第二の故郷”は、
福島県田村市の都路(みやこじ)
という小さな町です。
私が初めて都路を訪れたのは大学2年生の春休み、復興庁主催の復興創生インターンに参加したことがきっかけでした。
大学に入ってから長期休みにはいつも海外ボランティアに行っていた私は、日本国内にも目を向けてみようと思い、授業で少しだけ聞いたことがあった「地域創生」というテーマと「復興」というワードに惹かれてこのインターンに参加しました。
それまで東北と関わりを持っていたわけではなかったので、どこの地域に行くかは特に重視しておらず、インターン先が都路になったのはたまたまでした。
最初は都路の読み方すら分からなかった私ですが、1か月のプログラムを終えた頃にはすっかり都路のことを大好きになっていました。
全く知らなかった地域にここまで愛着が湧いているのにはさまざまな理由がありますが、一番大きな理由は、都路の“人の魅力”を感じたからです。
この記事では、私が都路って素敵な地域だなと思うきっかけとなった方々を紹介するとともに、都路で感じることのできる“人の魅力”についてお伝えできればと思います。
都路ってどんなところ?
まず、福島県田村市都路がどんなところかご存知でしょうか。
田村市は、平成17年に滝根町・大越町・都路村・常葉町・船引町の5町村が合併して形成された市で、福島県の中通りにあって浜通りとの境目となる地域です。
都路はその田村市の中の1つの地区で、とても自然が豊かな町です。
初めて都路を訪れたとき、東京生まれ東京育ちの私には見慣れない風景があたり一面に広がっていたのが印象的でした。
でもある意味それは、インターンに行く前の私の中での田舎に対するイメージと一致していました。山に囲まれていて畑があって、その中にポツポツとお店やお家があるような。
一方で、イメージとは全く違うこともありました。
それは、震災で一度活気を失ってしまった都路を何とかして盛り上げたい、都路のために何かできることをしたいという人がたくさんいたことです。
実は、都路は福島第一原子力発電所から30キロ圏内のところに位置していて、市内で唯一避難指示が出された地区です。そうした経験を乗り越えた地域だからこそ、自分たちの住んでいる地域を何とかして活気づけようという思いが強い住民が多いのかなとも思います。
都路を創る人々
では、都路では具体的にどんな人が活躍しているのでしょうか。
今回、私が実際に都路に行ってお話を聞くことができた方々を紹介します。
まずは、地元食材を使った商品の販売を通して地域の魅力を発信している大島草太さん。
大島さんは、田村市の隣にある川内村のそば粉を使ったワッフルなどを販売するKokage Kitchenの代表を務めています。
大島さんがこの活動を始めたのは2019年の春、まだ大学在学中の時で、その年の秋からは田村市地域おこし協力隊として、都路にあるクラフトビール会社のホップジャパンと関わりを持ちながら活動を広げてきました。
大島さんがちょうど大学を卒業される頃に、わたしは初めてお会いしました。その頃の大島さんはクラウドファンディングによってキッチンカーを入手し、Kokage Kitchenの出店先を福島にとどまらず日本全国へと視野を広げていて、「ここまで地域に対して熱くなれるなんてすごいなあ、それだけの魅力が川内や都路にはあるんだなあ」と思ったのを覚えています。
そもそも大島さんが川内村に関わり始めたのは大学の授業のプログラムがきっかけで、その後、海外や国内のいろいろな場所を旅するうちに、やっぱり自分には田舎の雰囲気が合っていると感じて再び川内村に関わるようになったそうです。
それからイベント等を通じて都路とも関わりを持つようになって大学卒業後に都路へ移住し、現在は田村市や川内村を含む阿武隈地域全体のPR活動をおこなっています。
*Kokage Kitchenのフェイスブックはここをクリック
続いて紹介したいのは、都路にある古民家を改装したよりあい処「華」を運営する今泉清司さん・富代(ひさよ)さんご夫妻です。
(写真はインターン中お世話になったときのものです。)
華では、月・水・金曜日の週3回、地元の食材を使用したランチを提供しています。
また、定期的に手芸教室も開いていて、店内で作品の販売もおこなっています。
私が初めて華を訪れたとき、ここに来ている方々がただランチを食べたり手芸をしたりするだけではなくて、富代さんや清司さん、そしてそこに居合わせた同じ地元住民の方々との交流を楽しんでいる様子がとても印象的でした。
先ほど説明したように、都路は田村市で唯一、福島第一原発事故による避難指示が出された場所でした。2014年にその避難指示が解除されてから都路に人が戻ってきたものの、食事を提供するお店がなかったため、お二人は地元住民が集うことのできる古民家レストランとして、よりあい処「華」をオープンすることを決めたそうです。
それから6年、今でも華は住民の方々が交流できる場所になっていて、さらに都路に住む人だけではなく、県外からもたくさんの人がお二人に会いに来るようになっています。
店内には華を訪問した方々の写真がずらーっと並んでいて、地域内外からたくさんの人が集まってくる素敵な場所であることがよく分かります。
(インターン生の写真も飾ってくれていました!)
ちなみに華で食べられる料理はどれも本当に本当に美味しくて、インターン期間中の半分くらいは華でお昼ご飯を食べていました。
“都路を第二の故郷だと思って欲しい”
都路を盛り上げる火付け役となっている大島さんと清司さん・富代さんご夫妻ですが、移住者と地元住民という関係性ながら、本当の家族のような深い関わりを持っているんです。
今回、久しぶりに「華」へ足を運び、3人にいろいろとお話を聞かせてもらいました
まずは最近の活動について。
県外にもファンが多い「華」ですが、新型コロナの影響で定期的に来てくれていた学生や社会人の方々が来れなくなってしまったそう。
それでも、メールや電話などで連絡を取ることで関わりは保っています。
もともとキッチンカーで全国を回るつもりだった大島さんは、新たな取り組みを始めたそうです。
僕は、全国回ってるどころじゃなくなっちゃったから、むしろ地元の人たちと一緒に都路の中で魅力あるイベントを作ろうっていうことで、人とつながる「つながりマルシェ」っていうのを始めました。
つながりマルシェというのは、ホップジャパンのブルワリーやオートキャンプ場などがあるグリーンパーク都路で定期的に開催され、地域内外の方々が、食べたり遊んだりくつろいだりしながらつながれる場となるようなイベントだったそうです。
最初は1人でキッチンカー出してやってたら、次から富代さんたちが出店しに来てくれて。広く広くPRしてやってくっていうのではなくなったけど、その分地域の人たちと一緒にイベントなどをやることでネットワークができていきました。
コロナ禍でもうまく切り替えて地域に貢献している大島さん。
それをサポートしているのが富代さんと清司さんですが、3人が初めて出会ったのは一昨年の夏過ぎのこと。大島さんが華へお昼ご飯を食べに行ったことがきっかけだったそうです。そのときのお互いの印象はどうだったのか気になったので聞いてみました。
私の(大島さんに対する)第一印象は、「良い子そうだな~」「かわいいな~」でした。それから、よく都路にきてくれたなという感謝の気持ち。自分の孫みたいにかわいいなの一点張りで、だから何があってもこの人の力にはなってあげたいなっていうお節介心が湧き上がってきて。
ひたすら「かわいい」と口にする富代さんと少し恥ずかしそうにしている大島さんを見ていて、なんだか微笑ましくなりました(笑)
初めて華に来たときから、都路をPRしていきたいという大島さんの思いはかなり強く、清司さんも富代さんと同様、自分が都路の人とのつなぎ役となって応援していかなくちゃならないという気持ちが湧いてきたそうです。
では大島さんからお二人への印象はどうだったのでしょうか。
最初はびっくりして。普通にお昼ご飯食べに来ただけだったんですけど、ただお昼ご飯を食べるだけじゃなくて、今の言い方をするとコミュニティスペースみたいな役割もある場所で。
そういった憩いの場になっているのはそこに富代さんがいるからこそで。こういう人がいる地域だから自分みたいな外から来た人も受け入れてもらって一緒に楽しいことやっていけるし、、、そういう意味で特別ですよね。
清司さんは都路のいろんな人を知ってるからいろんな人と繋げてくれるし。あとかわいがってくれるので(笑)ありがたいなって思います。
華のお二人が地域外の人のことも温かく受け入れてくれるということが伝わってきたところで、私のように何かのきっかけで都路を好きになって定期的に都路を訪れるような、いわゆる関係人口となる人についてどう思うかを聞いてみたところ、とても嬉しい答えが返ってきました。
大歓迎です。関わった人に来てもらったらば、涙が出るほど嬉しい。嫌だなって思ったことは一度もない。今度もまりんちゃん来るって言ったらば、「今度来るんだって。忘れないでいてくれたね。」って話してました。
(富代さん)
皆さん故郷はそれぞれあると思うけど、都路に関わりを持ったことで、都路を第二の故郷と思ってどんどん来てもらえればいいなと思うね。いつまでも関わり合っていきたいなと思います。
(清司さん)
お二人の言葉が温かすぎて泣きそうになりました、、、。
私は、インターン中にたくさんお世話になったお二人のことを本当のおじいちゃんおばあちゃんのように思っているし、冒頭にも書いたように都路は私の第二の故郷だと思っていますが、それを改めて感じた瞬間でした。
続いて、3人が思う都路の魅力やアピールポイントについて聞いてみました。
何もない自然豊かなところだけれども、人はみんな良い人ばかり。その何もないところを今何とかしなくちゃならないと思ってる。グリーンパークもさらに活用できれば。 (清司さん)
清司さんの話す都路の魅力について、富代さんもその考えには賛成のようで、最近はその魅力の発信の仕方について、少しずつ増えてきている移住者など外から来た人たちの力を借りていきたいと思うようになったそうです。
移住者である大島さんの目線からは、都路はどんなふうに映っているのでしょうか。
僕は、もともと住んでる方々が外から来る人を受け入れてくれて、その人の持ってるものを活かそうとしてくれる、こんな大学卒業したばっかりの人でもいろんなことやらせてもらえるし、仕事だけどそれ以上にもう楽しくてやってるっていう生き方ができるのが良いところだと思います。
たしかに、初めて出会ったときから大島さんはのびのびと自分のやりたいことをやっている印象でした。もちろん大変なこともあると思いますが、住民の方々からの応援やサポートによってどんどん新しいことにチャレンジしていける環境なのかなと思います。
そして都路の魅力として大島さんがもう一つ挙げていたのが、地域の子どもたちを地域全体で育てていこうという雰囲気が強いところ。
これには清司さんと富代さんも強く共感している様子でした。
子どもたちも都路への思いがうんと強いんだよね。都路を何とかしなくちゃならないっていうことも考えてるみたいだから、子どもたちも当然応援していかなくちゃならないと思って、いろんな形で子どもたちと関わっていけるような活動をしてます。
(清司さん)
都路に住む人々は、外から来た人のことも地域の中にいる人のことも大切にする地域であることが分かりました。
特に子どもたちを大切にする雰囲気は、私もインターン中に何度も感じていました。
みんなで考える都路のこれから
そんな都路のこれからについて、3人はどう考えているのでしょうか。
行政とも関わりを持って活動している清司さんは、空き家対策で移住者を募集する取り組みをしようとしているそうです。
若者がここへ来て住みたいなと思ってもらえる環境を作っていきたいなと思ってるね。働く場所は近くにあるから、都路を居住地にして欲しい。
そして、都路が限界集落にならないよう、子どもたちに都路を大好きになってもらうようにしたいと力強く語る富代さん。
働いているお母さんお父さんたちに代わって、私たちのように一生懸命できる人が、都路の子どもたちのためにできることをやる。そうすると都路って良いとこなんだなって思ってもらえる。そして子どもたちが私たちの背中を見て自分たちも何かやろうって思ってもらえるようにしたい。
「そこまでは及ばないかもしれないけど」と付け加えた富代さんですが、華のお二人は間違いなく、都路の未来を担う子どもたちを育てることに貢献していると思います。
そして清司さん・富代さんとともに都路の子どもたちの手本となるであろう大島さんは、活動を始めた当初から根本にある想いは変わらないそうで、、、
僕は、ここでの活動の根本の1つが、この地域の人たちが大事にしてきたこととか、いろんな文化がなくなってしまわないために何ができるかっていうところで。そのできることの一つがこの地域を知ってもらえるきっかけづくりとしてのキッチンカーなので。これからも、都路もだし川内もだし、阿武隈地域のことを知ってもらうきっかけを作って、地域を好きになってまた来てくれる人を大事にしたい。一度興味を持ってくれた人にどんどん知ってもらえる仕掛けができればなっていう。これからも根本はずっとそこなのかなって思います。
それを聞いていた富代さんが
「都路を良くしようっていう第一歩は(大島)草太君だと思うんです」と言うと、すかさず「いや第一歩は富代さんたちですよ」と笑って返す大島さん。
富代さんがそこまで言うのは、つながりマルシェでの大島さんの活躍ぶりを見たからだそうです。
つながりマルシェは草太君の発案でやったわけだけど、まあ最初人なんか来ないのかなって思ってるうちに子どもたちがいっぱい来るようになったんですよ。人がどんどん集まり始めてるから、今後も休みの日に子どもがいっぱい来るような場所になって欲しいし、その第一歩をやっぱり草太君がやってくれているなって。だってあれだけ人集めるんだもん。そういう構想がすごいなと思って。
続けて清司さんも、自分たちのように都路の中で育った人とは違う、外から来た人だからこその視点から都路を良くするための発想をしてくれることがありがたい、そして出会いが広がってどんどん交流できれば良いなと思う、と話します。
実際に、郡山から噂を聞きつけてつながりマルシェに出店してくれた方が都路を気に入ってくれて、その方のお店でも常連さんに話がいくなど、つながりは徐々に広がっているようです。
それぞれの都路に対する思い、そしてお互いへの期待や信頼を感じられて胸が熱くなったところでインタビューは終了しました。
今回のインタビューを通して、
私が改めて感じた都路の“人の魅力”は大きく2つ。
1つは、住民の方自身が都路に対してとても愛着を持っていて、都路のために何かできることをしようと考えているところ。
地域に入ったときにこれを感じると、気づいたらその地域のことを自分事として捉えるようになって、自分も何かできることはないかなと考えるようになったり、これからその地域がどうなっていくのか気になったりして、関わり続けるきっかけになると思います。
もう1つは、外から来た人をとても快く迎え入れてくれるところ。
富代さんが一度関わった人がまた訪れてくれると涙が出るほど嬉しいとまで言ってくれたように、住民の方が地域外の人のことも温かく受け入れてくれると、「またこの人に会いに来たい」という思いが芽生えてきます。そしてその気持ちがその地域を好きになることにつながると思います。
都路で感じることのできる“人の魅力”、特定の地域にのめり込んでいる人がよく言う“人の魅力”とはどのようなものなのか、少しは伝えられたでしょうか。
これを読んだ皆さんが、都路に行ってみたいな、この人に会ってみたいな、自分もどこか地域に関わってみたいなと思ってくれたら幸いです。
都路からの帰り道。
郡山駅まで富代さんと清司さんが車で送ってくださったのですが、
車の中でもお二人は、
「都路ではこの前こんなことがあって…、今度こんなこともあって…」
と最近の都路についていろいろ話してくれて、本当に都路のことが大好きなんだなというのが伝わってきました。
そんなふうに楽しくお喋りしていたらあっという間に郡山駅に着きました。
とても久しぶりの訪問だったので別れるのが結構寂しくなるかななんて思っていたのですが、意外とそうでもなくて。たぶんそれは、またいつでも来たいときに来ればお二人が温かく迎えてくれるだろうし、都路との関わりはこれからも続いていくと私の中で確信していたからだと思います。
これからも都路は私の“第二の故郷”であり続けます。
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