絶ッッッッ句
お気に入りだった
冬になると、空気の寒さが 心臓の隣にある器官に作用して、 あらゆる感覚が鋭敏になる 夏にはなかったささやかな感情が 確かないのちのかたちを保って脳裏にあらわれ 暑さに弱い小さな気持ちの弱さが はっきりと拍動を結んで言葉となる か細いばかりの人生だ… 冬が来たんだ 本当だよ、嘘じゃないんだ そういう時にことばを鵜呑みにすると 大抵ろくなことにならないが 今はそれでいいのだ 今はそれが心地よいのだから
骨が薄れている 我々の骨が薄れている 真っ直ぐに立つ人はもう いないのだろうか 唯 望光(ただ のぞみつ) 「人人」より「骨」 乾杯しやう その時分だらう どうやらこの世の細事を 忘れても良い時が来たのだらう 山路照夫(やまじ てるお) 「明日には天が落ちるだらう」 より「忘虐」 指先を太陽光に透かしてみなさい どうでしょう、空にもいのちがあるでしょう 私たちは繋がっている、 あなたはそれを、 ずっと昔から知っていたのです。 田島なずな(たじま なずな) 「畦道」よ
しゃりしゃりという冷たい砂の心地が足元にある 指先の間に無理やり入ってくる様に惚れ惚れしてしまいそうになる夜の中、薄暗闇の遠くの月と、路傍の街頭のきめ細やかな細い光、ぼんやりと鈍く広がる雲によって拡散されたそれらの光の統合。プリズムと化した波間には時々夢のような虹色を孕んでいる気がする。そういう檸檬のような光に照らし出された木陰には、まるで悪気のない人間だとしか思えないいくつかの生命があり、その時間においては生命であるか生命でないかはさしたる問題では無いのだが、そういう存在
つたない黒のクレヨンの何筆かで描かれたみたいな隘路。そこに私は目的もなく歩きさまよっているのだが、今日ばかりは少し機嫌の悪さがある。一つ咳をうむっとして、喉の奥にひっそりとした罪悪を路上に掃き出し、一本の煙草をくわえた。なに、ただの人参を吊り下げられた馬のように生きようというだけの話だ。ぢりと音を立ててその命を煙と快楽に変えてゆくこの白い棒は何も言わず、私に訴えかけてくる。燃やせ、もっと燃やせ。そういうことが続いているときにはたいていろくなことにはならない。頭の疲れが極まって
おいしいですね。 しとしととした彼女のつぶやきは、物理学的にいえば全く通らない。しかし一言一句違わず僕には明瞭に入ってくる。お酒を飲んで騒ごうという会にあるまじき静黙に、確かに反芻して何度もすんなり心の中に入ってくる。憂いをいくつか秘めたような笑顔、風が吹いたら飛んでしまいそうな華奢な体、さてどう扱ってしまっても壊れてしまいそうな相手に何を話そうか。 「それ、1口…、……くださいよ」 既に僕が口をつけた酒だ。そういうことを気にしない相手なのかもしれない。泣いてしまいそうな悲痛
なんか仕様変わった?
こびりつく朝の砂のつぶ、 とおくの稜線が濃くなるのとおなじそくどで 頭蓋骨の中に君が増えていく とまれのあかい標識 とか、 コンビニの安いドーナツ とかにも ほんのりとした起爆剤を含んで クローゼットの奥にしまったはずの髪留め なんだってそうだった あの時はそれほど輝いてて この雲がクリームだったら 僕はイチゴになれないのかな っていう 君みたいな僕のセリフを君は覚えていないかな。
やァシイラカンスといふものが 飾られていると聞いたのだが (和服を着崩している、ちらりと見える脇差) 古代も古代の大神秘、アフリカなる地の珍物とな と語る彼の背には、幾人もの影 現代を生くる化石なのだよと父君からは教えられたものだ 鮭 商人はこっそりと見せたのだ それは見紛う事なきただの鮭であるが 詮方無いこと それは彼の真実である アフリカから来たる白い歯の男は言う コントラストの美しい何某よ シイラカンスなるものがあるならば 君にぴったりじゃないかね 無知は
落ちる雪の 僕らを照らすように 夜風にひとさじのグラニュー糖 瞬く間に掻き消えた すっかり黒んだ電波塔は もう使われていないのだ 規格に合わない合理性は わがままな月の光から 慈愛にも見えるつめたさ、 突風が ドーナツの穴を通り抜けていく 口に酸っぱさを残して
パンの上で溶けた砂糖の甘い匂いが キラキラしただけの子たちといっしょにエスカレーターを登ってくる お揃いなキーホルダーがいくつか音を立てて ふわりとした金木犀の匂いが混ざる、 幼稚なおとぎ話の花畑を眺めてるみたいで そそくさと逃げるようにして 相手には聞こえないよう下向きに鼻で笑った 数学にイライラしていたんだ 前髪の作り方とか、ピアスを開ける場所とか そんなことばかり気にする彼らが キラキラになるまでの過程を無視して 結果だけ見ていつもイライラしてた 今すべきことは何なの
ぺトリコール香る頭の大きな僕の背で 髪を右手でクルクルやる君と脚 途端、「夏だね」の声で 空気と心臓が揺れた 君が そんなことを言うから この花壇のアジサイは紫になってしまった 生物係なんだから、と撫でてみて けれど 粗野な撫で方に アジサイは いくつかの輝きを 落として 乱暴に 野性的に 暴力的に 無闇やたらと伸ばされれた手が 僕の心臓を 無制限に 無限大に 無条件に 奪い攫ってゆく たまらず心臓を吐き出した 血液は巡らないけれど それの方がマシだった シトラスの香
なんやかんや嬉しいな
細雪に情けなく腕を震わして 遠雷と聞き違うほど 深い産声を上げる哀しみに 「何かあったのかい」 クジラの大質量に掻き消されていく 調律の狂った行進曲のまま 「僕が支えるさ」 そう言って笑えば それだけでいいだろうか 教会に神が寄り付かないように、 僕から君は離れていって その内に僕の中でも教義が分かれて あぁ これは これこそが祈りで 軽く灰に染められたクジラたちが 星の心臓に炭素を投げつけて 酷く 重く 冷たく 暗い 深層海流 ここはこころの生まれた場所
突き通る雲、 垂直に白く 怒りなほどに透明で 真ん中の葉っぱをひとひら 詩を書き付けてやる と思うと途端に何も浮かばない コンクリートジャングルを歩くけど 昨日には花咲いてたわだかまりが ふぅっ … と 空いていた 幼稚園児が白いクレヨンで 飛行機雲を描いていて 「そうやって使うんだ」呟いた 空を駆けていく一閃、 僕は まるで怒りみたいだ
水のように 貴方のやわらかい雪原に す 、 ぅ… …と、 金属同士が触れ合うが歪な 和音は起こるはずも無く 互いに世界観を譲り合い、 止揚の結果として 取り乱したのは、蜂蜜のような赤 押し花みたいな貴方は もうずっと 笑顔で 途端 たなびく 雲煙の上 ピアノの雨を浴びる 鼓膜を情景が濡らした朝、