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ハガネの物差し 1

およそ人と人とのコミュニケーションにおける、行き違いやいさかい、本論とは少し違う部分での意見の対立、感情的なもつれなどの原因は「自分の物差しを振りかざす」姿勢から生じるものだと、私は理解しています。

私は昔から、自分の意見を人に押し付けようとする人が苦手だ、というよりもはっきりと嫌いです。

30代のころ(90年代)、当時勤めていた会社で、永年勤続賞という制度ができて、勤続10年・20年・30年の社員には1週間の連続休暇がリフレッシュ休暇という名のご褒美として与えられることになりました。

私はそれを利用して、耳鼻科専門病院で鼻中隔湾曲症の手術を受け、入院治療し、心身ともにリフレッシュを果たしました。
入院は10日間に及んだのですが、それ以来、鼻詰まりは一切なくなったし、風邪もひかなくなりました。

ある年、一回り以上年上の先輩が勤続30年の節目にあたり、この休暇制度を利用してご夫婦でイタリア旅行に行かれたのですが、彼は入社以来、連続休暇など想像すらできなかった典型的な昭和のサラリーマンで、よほどうれしく楽しかったのか、帰国後出社してきてから、目につく社員一人ひとりに旅行の様子を写真を見せながら話しかけていました。

私の方に来なければいいなあ、と思って下を向いてデスクに向かっていると、案の定やってきて、

「君、夏休みはどこかに行くの?」
「はあ、子供たちを連れて那須の方に行こうと思います」

するとこう言ったのでした。

「そんなさあ、国内なんかでお茶を濁さないで、海外に行ってきなよ。海外は楽しいよ~」

それ以来、この先輩とは口を利かなくなりました。

社長とも衝突しました。

常務取締役営業本部長の職にあったとき、某石油企業に勤めていた経験のある社長にこう言われたことを思い出します。

「君はなぜ、製品を高値で販売しようとするの?」
???
業界トップメーカーの営業本部長として、伝統的なブランド力の維持と業界プライスリーダーとしての誇りを、土足で踏みにじられた気がしました。

「僕は、かつて石油企業にいた時、エリアのガソリンスタンドを束ねていたんだが、A社のスタンドが100円/ℓで販売していたら95円/ℓ、95円/ℓに値下げしてきたら90円/ℓ、それでも値下げして対抗してきたら、そのまた下の価格をぶつけて、徹底的に価格戦争を仕掛け、相手が白旗を上げるまで競争し、結果的にそのエリアから競合他社系のスタンドをほとんど排除してきたんだ。それが商売っていうもんだ。なのに、君はあえて製品を高値で販売しようとしている。それはよくないと思うがね。」

「その方法が合理的な時にはそうしますが、そもそもガソリン販売のビジネスと建材のビジネスとを、同じ物差しで言われても・・」

この時は、私自身も私の物差しを譲ろうとせずに、片意地を張った状態になってしまいました。

自信を持っているということと、鋼鉄のような物差しを持っているということは、表裏一体なのかもしれません。

こんな部下もいました。

「お客様からお怒りの電話が私のところに入っているんだが、何があったんだ?」
「いや、B社長にいくら説明してもわからないんですよ。このケースと以前のケースは違うので、今回のケースでは特例は適用できないって、何度も説明しているんですが」
「お客様の立場に立って考えれば、前回やってくれたのだから今回もお願いしたいというのはありうることじゃないか?」
「いや、でも普通わかりそうなものじゃないですか。全く違うケースなんですよ」
「君の言う普通って、誰の何を指すんだい」
「いや、普通ですよ、普通。普通そんな要求なんかしてこないですよ」

かくいう私にも、同じように自分の物差しを振りかざしたことが何度もありました。

私はギャラップ社のストレングスファインダーテストで「活発性」という資質を、34ある資質の4番目に持っています。
この資質を持っている人の特徴として、思いついたらすぐにでも始めたい、いつからやろうかと、いつも何かを始めることでモチベーションを高めていくタイプで、じっとしていることが大の苦手でどちらかというとせっかちなタイプが多いと言われています。

当時、私の部下に「慎重さ」が上位であろうと思われる社員がいて、ある時お客様からこんな電話を頂きました。
「後任の担当のCさんなんですけど、もう少し頻繁に来るように言ってもらえませんか。先月の引継ぎの後、1か月たってもまだ一度も来ないんですよ」

それはまずい、特に担当を引き継いだ直後は、相手が嫌がるほど頻繁に訪問して、名前と顔を覚えてもらうのが鉄則だ、そう思った私は彼に、

「何をもたもたしているんだ!早く訪問してこい!」

すると彼は、
「はい、でも準備が・・」
「準備もへったくれもあるか、とにかく行ってこい。行ってから考えろ!」
「そんなこと言われても、準備もできないうちに訪問したって・・」

そんなやり取りの二日後に、明日から出張に出る彼に出張予定を確認すると、朝9時の訪問先、打ち合わせ相手、内容、用意していくもの、サンプル等々から、夕方6時の欄まで、ノートにびっしりとスケジュールが書いてあります。

「こんなにたくさんのアポを取ったのか?」
「はい。せっかく行っても空振りだったら意味がありません。ここまでスケジュール調整するのに時間がかかってしまいました」

そこまでびっしり詰めていっても、すべてが予定通りに行くわけないし、主要なアポだけ取って、あとは出たとこ勝負で行けばいいのに、と思いましたが、彼のやり方を見ていました。

そして帰社した彼に出張の報告を聞いて見ると、実にたくさんの商談を持って帰ってきて、成果としては上出来です。

お客様にも電話で確認すると「しっかりとこちらの話しを聞いてくれて、助かりました」との回答。

「なんだ、そこまでできるんだったらもっと頻繁に訪問すればもっと成果が上がるんじゃないか?」

そういう私に、
「何事も準備が肝心ですから」
と、まるで私が当てずっぽうに空打ちばかりして、成果の乏しい骨折り損のくたびれ儲けのようなことを言うのですが、ここは、私の「早く動くのが一番」という物差しを、慎重に用意周到準備してからでないと動き出せない彼に押し付けていたなあと、あとになってそう思いました。

それがわかってからはその彼には「早く動け」ではなく「次の予定は決まったのか」と聞くようにしました。

「慎重さ」を上位に持っている人は、用意周到に準備さえできていれば、的確な判断力を持っているし、あまり自分から話をせずに人の話をじっくりと聞く人が多いので、その特質を理解していれば、むやみにせっついたりイライラしたりせずに済むものだということを学びました。

およそコミュニケーション上でのすれ違いや行き違いは、こうした「自分の物差しで相手を測る」ことから始まります。
人と人、会社と会社・国と国、すべてそうだと思います。
相手には相手の個性とやり方がある、まずはそのことを認識しないうちに、自分の物差しで相手を測ろうとする。

自分は正しい、なのに相手は・・

こう考えているうちは、コミュニケーション能力的には子供同然ですよね。

この手の話しはたくさんあるので、折に触れて書いていきます。
ご興味があれば、また読んでみてください。




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