短編小説「サンタさんの存在が懸かったパンドラの箱」
「ソラがあける!!」
ソラは最近、ダンボールを開けることを覚えた。家に届いたダンボールは全部ソラが開ける。
ハサミも使わずに、ただテープを雑にはがして開けるだけで自慢げなソラに、私は癒やされる。
今日も、ダンボールが届いた。
宅配業者から受け取った妻のサヤカは、ソラの届かない高いところにそれを置いた。いつもならダンボールはすぐにソラに渡すが、今日は渡さなかった。
その理由は予想がつく。中身は、先日サヤカと相談して買った、ソラへのクリスマスプレゼントだ。
ソラはサンタさんを信じている。実際は宅配業者がダンボールで運んできたこと、知ったらショックだろう。
「ソラ、今回のダンボールはパパの大事なものだからパパに開けさせてな。」
「いやだ!ソラがあける!」
「ゴメンなソラ、今回のだけはどうしても」
「いやだ!!!ソラがあけるもん!!!あけるだけだから!」
「あけるだけ」という言葉に騙されてはいけない。どうせ中身まで見たがるのがソラだ。
今回のダンボールは、サンタさんの存在が懸かったパンドラの箱だ。絶対にソラに開けさせてはいけない。
さて、どうしたものか。父と子の心理戦だ。
「あれはな、パパのお仕事のものなんだ。傷をつけちゃいけないから、パパに開けさせてくれないか?」
「いやだ!ソラがあける!」
もう、こうなったソラには理屈は通らない。あれをあけたら爆発するなどと言ってもソラは開けたがるだろう。
ならば、ご褒美だ。ダンボールを我慢すれば、嬉しいことがあるぞと伝える。
「じゃあソラ、もし今回ダンボールを我慢したら、今夜はママがハンバーグ作ってくれるぞ!」
「え!ほんと!んー、どうしようどうしよう。」
ソラは明らかに迷っている。ハンバーグ作戦、これはいける。
「いや、今日もつ鍋だよ。」
おいサヤカ。なぜ今日に限って私の好物なのだ。嬉しいが。
「ハンバーグないならソラが開ける。」
ハンバーグ作戦はうかつだった。もうこうなってしまったら、ハンバーグ以上の見返りがないとソラの意思は動かない。
「もう、開けたい!開けたい!!!」
ソラの感情が高ぶってきた。非常にまずい。なにか方法は、、、
そうだ!ゲームだ。
「ソラ。ゲームで決めよう。サンダーマンで勝ったほうが開けよう。」
ゲームが大好きなソラは嬉しそうにいった。
「やったー!パパ弱いから絶対勝つもん!」
結果は私の圧勝だった。そりゃそうだ。いつもは手加減してやっている。サンタさんの存在が懸かっている今回は、容赦などしない。
「じゃあソラ、ダンボールはパパが開けるね。」
「、、、嫌だ。」
「約束だろう?」
「、、、、嫌だ!!!」
ソラは、ゲームで負けた悔しさで、逆にダンボールへの執着が強くなってしまった。サヤカが「やらかしたね。」みたいな目で見てくる。もう、私はどうすればよいのだ。。。
「もう、開けさせてあげようよ。」
サヤカが言った。確かに、この調子で夜まで駄々をこねられたら明日の仕事に支障がでる。仕方ないか。
その提案からは、「また別のプレゼントを買えばいいよ」という、サヤカの優しい意図が汲み取れた。
サヤカがソラにダンボールを渡す。サヤカはソラに何か耳打ちをしているようだった。何をコソコソといっているのだろう?
「パパ、やっぱりこれパパが開けて。」
「、、、え?」
頭が回らない。何があったのだ。ソラは満面の笑みだ。早く開けてほしいと、ウズウズしている。
「はやく、パパが開けて!」
理解が追いつかないままにダンボールを開けると、中にはブランド物の箱が入っていた。明らかに、ソラへのクリスマスプレゼントではない。
その箱を開けて出てきたのは美しい革財布だった。光るような黒に身を纏い、スタイリッシュにブランド名がかかれた、魅力的な財布だ。
「パパ、誕生日おめでとう!」
そうか。今日は私の誕生日か。ソラのことばかりで忘れていた。
「ソラが選んだのよ、それ。」
驚いた。どこでこんなセンスを培ったのだ。
「2人とも、本当にありがとう。大事にするよ。」
私は2人を抱きしめる。
その時、インターホンがなった。サヤカが明らかに焦った様子でこっちをみる。
「...俺が出るよ。」
宅配業者からダンボールを受け取り、ダンボールに貼られたシールで内容を確認する。「ゲームソフト サンダーマン2」と書かれている。間違いなく、ソラへのクリスマスプレゼントだ。
玄関のドアをしめ、後ろを振り向くと、ソラが立っていた。
「ソラがあける!!」