短編小説「暴走CA」
「お客様の中に上から目線が行き過ぎてもはや悪口で知恵袋の回答をする何様はいらっしゃいませんか!!」
今日でCAをやめる先輩の暴走が始まった。
初めて聞いた何様の使い方だ。
「お客様の中に切り取り記事に踊らされるだけならまだしも、被害者であるタレントに極端な意見を述べ二次災害を起こしている天然の危険因子様はいらっしゃいませんか!!」
先輩はかねがね言っていた。
「普段ネットで見かけるアホが客の中にいるかもって考えたら吐き気がする。」
「お客様の中にどこの馬の恥骨が書いたかわからんネットの知識を専門家の意見よりも信じて我が物顔で拡散する情報リテラシー皆無の古代思想様はいらっしゃいませんか!!」
他のCAが慌てて駆けつける。乗客は口がポカンとあいている。
「お客様の中に、アーティストのパフォーマンスをハナっから否定の目で鑑賞し、一銭も払っていない部外者の癖して視聴者だからという大義名分の元、歌詞がなんだ歌唱力がどうだと自分が遥かに劣っている部分を審査員気取りで評価・投稿するくらいでしか日々に彩をもたらせられない人生ドブ色のご愁傷様はいらっしゃいませんか!!」
先輩は取り押さえられた。できることならもう少し聞いておきたかった。だけど先輩は満足そうな顔をしているし、私も少し心が晴れた気がする。
「あの、すみません。」
客の一人が手を挙げた。
「僕、最後のアーティストのやつに当てはまるんですけど。」
まさかの自己申告に機内が呆気にとられる中、先輩だけは落ち着いていた。
先輩は少し時間をおき、こうアナウンスした。
「お客様の中に、お医者様はいらっしゃいませんか!!」