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私が帰るカスタム823
結局そこに戻る。そんなペンがあるとすれば、私の場合はパイロットのカスタム823だろう。はじめ手にしたトランスペアレントブラックの中字がいたく気に入った私は、後にアンバーの細字も追加した。
実は私には中字くらいの字幅を好む傾向がある。それに一本目の中字が目になじんでいたこともあって、細字には最初、〈細すぎるかな〉という印象を持った。が、使ううちにすぐにそれもなじんできた。
見た目もアンバーのほうは最初、〈何だか蝉のようじゃないか〉とどちらかといえば消極的な感想が去来したものだが、字が目になじむとともに、〈やはり琥珀は落ち着いた品があるな〉などと正反対の評価が、はじめからそう思っていたかのように生じたから不思議である。
そういうわけで今はこのアンバーの細字も、トランスペアレントブラックの中字とどちらかを選ぶことはむつかしい、と云えるほど気に入っている。
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さて、私がなぜこれらカスタム823に戻るかといえば、書きやすいからである。ただ、ちょっとしたメモには、——このペンには書きはじめる前に尾栓をクルクルと回して開放するという手順もあるから——即応性の観点からあまり使おうとは思わない。
したがって、長い文章を書かない時期が続けば、その間はあまり使わないが、いざ長めのものを書こうかとなれば、やはり一番に使いたくなる。
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私の持っているペンのなかでは、同じパイロットのカスタムヘリテイジ92も、こちらはスクリュー式吸入機構を備え、インク切れをさほど気にせずに長々と書けるペンである。が、個人的には、指先に触れる樹脂の感触がどうもしっくりとこない。比べると、カスタム823には、もっとしっとりとした感じがある。
ここまで書くと、私はおもむろにカスタムヘリテイジ92(FM)を引っ張り出した。記事にするのだから、思い違いがあってはよくない。今一度そのペンを触っておこうと考えたのだ。そうして手に取ってみると、〈おや〉
どうしたことか、カスタムヘリテイジの樹脂もなぜかしっとりとしていた。〈そんなはずはない〉私はくりかえし撫でてみたが、その感触は変わらなかった。
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あのあたかも私の好意を拒絶せんとするような、取り付く島もない態様はどこに行ったのか。私の勘違いだったとでもいうのだろうか。今、私が手にしているカスタムヘリテイジ92はとても持ちやすい。
「恋は盲目」という文言が脳裏に浮かんだ。どうやらカスタム823への思い入れが強すぎたが故に、無意識ながらカスタムヘリテイジ92を相対的に、不当に貶めていた模様である。
これではカスタムヘリテイジ92にとても申し訳が立たない。立つものか。しばらくはこのカスタムヘリテイジ92をよく使ってみようと私は決めた。