プラチナ・プレジール
プラチナのプレジール。売りは豊富なカラーバリエーションを備えたアルミのボディと、キャップを閉めた状態で、一年間使わなくてもインクが乾かないという「スリップシール機構」を搭載したところか。
私自身は、インクは乾くものだと捉えているので、そのスリップシール機構の恩恵を実感しているわけではない。経年変化しない皮革製品や、日持ちする鮮魚に似た薄気味悪さを覚えるといえば言い過ぎだろうか。
字幅は中字(0.5)、細字(0.3)の二種。個体差はあるだろうが、私の手元の二本については、中字にはややもたつくときもあり、細字のほうがスラスラと書ける印象がある。
もっとも一般的に、字幅は太いほうが筆記角度の影響を受けやすく、細いほうがそれに鈍感だと云われる。その一般性の表れと見るべきかもしれない。
プレジールはカートリッジ式の万年筆で、コンバーターの使用は推奨されていない。しかし、コンバーターが使えないものでもない。
ただ、この万年筆は、ペン先の根元と首軸の先が重なるところにけっこうな隙間があり、コンバーターを挿してインクを吸入する際には、(ペン先をインクに浸けるので)その隙間にインクが溜まってしまう。
二三日経つと乾くので不都合というほどでもないのだが、どうもエレガントさに欠けるので私は嫌になった。そんなこんなで、私はこのプレジールにはカートリッジをセットしている。
「プレジールは、こんな言葉があるかは知らないが――1000円万年筆で、つまりはだいたい千円以下で買える」。そう書いてから、確認のためにアマゾンを開くと、どうも様子がおかしい。かつて1000円であった標準的なモデルが1500円(税込1650円)に値上がりしているらしい。
私はしばしぽかんとし、1000円カットも1200円になったりしているし、仕方のないことだと納得したり……でも1.2倍と1.5倍とではずいぶん印象が違うなとしつこく考えてみたり……まあ、お金の話は止そう。
私などは、このプレジールに関しては、書き心地に何か特別な魅力を感じるわけでないのだが、これだけのものが700円程度で手に入るのかという驚きに非常な価値を見出していたところがある。その意味では、どこかプレジールの価値が減じてしまったような寂しさを感じなくもない。
ところが改めて記録を繰ると、私は中字のプレジールを2019年5月に、細字を2021年1月に、いずれも700円弱で購入していた。後者から見ても結構な月日が経っているのだ。値上がりについては、責をプレジールに問うのは当たらず、ただ私が時代の流れに無頓着であったと認めざるを得ない。
いずれにせよ、かつてこれだけのものを700円弱で提供したプレジールの価値は、時が経とうとも奪われはしない。手元の二本のプレジールの輝きが失われることはないはずだ。
改めてプレジールの書き心地について述べるなら、「これといって悪いところは見当たらないが、かといって何か特別なワクワクする点があるわけでもない」。
私は主観的感覚として、自ら走りたがるペンをそっとガイドして書いているような感触が好きだが、このプレジールはそんなふうには走ってくれない。
それは、ボディの軽さを含む全体的な仕様の組み合わせがそうすることを許さないのだと推測している。いつかペンが走り出すかもしれないなどとは期待せずに、100%自分の意思でプレジールを操らねばならない。もっとも、大半のペンはそうであるともいえる。
それで書き心地についての話が終わってしまっては物寂しいので、プレジールの特徴をつかまえるために、私的、主観的な感想を敢えて誇張して述べておきたい。
中字は、何か書道家が一畳ほどもの大きな紙に大きな筆で書くような、ノートの上であっても一文字の範囲を大いに意識した書き方になる。中字は筆記角度に敏感であると先述したが――、無意識にそのことへの対策をとっているのではないかと思う。
細字はスラスラと書けるが、筆記に機微が現れるかといえば、そういうふうでもなく、どこかごくごく細い修正テープを引いているような、あるいは昔でいう石灰のライン引きのような、起伏に乏しい感触がある。
今回の筆記では、中字にブルーブラック、細字にブラックのカートリッジを挿した。用紙はツバメノートA5。