Do You Trust Me?
この頃お医者さんに良くなってきたね、と言われる。そうだろうか。僕にはよくわからない。確かに前よりは長く活動出来るようになった。気分の落ち込みも減ったと思う。その話をするから、良くなった、と言われるのだろう。
けれど、まだまだ悪いこともある。学校に行けるようになったのも、半分以上は人間関係を諦めたからだ。にんげんなんて所詮そんなもん、誰も分っちゃくれないんだ、だからひとりでもいいや。そんなふうに思うようにしたから。
自傷だって辞められていない。そのことをお医者さんには伝えていない。伝えても意味がない気がする。伝えない、ということまで含めて始めて僕の自傷行為が完成する。治ることへの拒絶、お医者さんへの不信。
なぜお医者さんも信じなくなったのだろう。たぶん、僕のこと分かってくれないな、と思ったからだ。いつも決めつけるような口調で僕について語る。笑顔で優しい先生だけれど、その断定口調に僕は反発する。全然違う、何も分かっちゃいないくせに、って。だって僕がいちばん苦しんで悩んでいること、つまり家族のことについては何も言わないんだもの。
僕の心の傷はまだ塞がっていないどころか血を流し続け、化膿している。けれどそれは心の奥深くに仕舞っているから誰にも気づかれない。少しでも外気にその傷を触れさせたらもっと痛いと思う。それが怖い。だから必死に奥へ奥へと隠している。分かってくれやしないから、という絶望で蓋をする。
そして僕が元気なふりをするのは、ある種の復讐でもある。馬鹿なにんげんたち、こいつらを全員騙したい。僕が抱えている心の傷に気付きもしないくせに偉そうに、親切そうにしている奴ら。ああ、みんなみんな愚かだ。そう思って見下して、醜い自己を満足させている。僕を助けてくれなかった奴らを欺くことで、そうだ、こいつらには僕を助ける能力なんてなかったんだ、と自分を納得させる。
信じるのは自分だけ。だって僕は嘘つきだ。いや、ただ僕は沈黙しているだけで、奴らが勝手に騙されているだけなのだが、やはり結果は同じだ。そんなにんげんたちを信じることなんて出来ない。
こうして僕は孤立していく。孤独になっていく。それが「悪くなる」ことだと知っていながら。日に日ににんげんに絶望していく。だから心を閉ざす。何も語らない。相手が望むことだけを語り、望む行為だけを行う。僕が能動的になることはない。誰も信じない、ただそれだけ。他人なんか知らない。