こころが空っぽだね

 なにかに夢中になり続けた人生だった。現実から目を逸らして、まさに夢の中にだけ棲んでいた。

 子どもの頃は本ばかり読んでいた。覚えるほど読んだ本も何冊もあった。図書館の貸し出しカードが増えていくのが嬉しかった。本の中の世界に入れば、怖いことを忘れていられた。

 その次は勉強に打ち込んでいた。勉強法の本、参考書を片っ端から手に入れては成績を上げていく。ゲームみたいで面白かった。内容そのものも興味をそそった。良い成績を取るたびに周りに認められた気がした。

 それで運良く世間で良いと言われる大学に入ることができた。最初は部活とサークルで時間を埋めていた。けれど忙しすぎて、部活は辞めてしまった。でもサークルは、学年では頑張っている方だと言える程度には一生懸命だった。
 この頃にやっとスマホを自由に使うようになった。それで少しだけ、空虚な時間というものに触れたようなきがする。その時にはもう、取り返しのつかないほどの穴が心に開いていたのだと思うけれど、気がつかなかった。

 それにたぶん、恋愛にも依存していた。すぐにLINEを返し、長電話に付き合い、呼ばれたらすぐに出向く。きっと都合のいいやつと思われていたに違いない。無意識かもしれないけれど。

 そんな生活からも離れて、また勉強と、そして研究に打ち込む日々がやってきた。充実していると思う。忙しいと思う。

 それなのに、心にぽっかりと穴が開いているのを感じる。冷たい風が吹き抜けて、ちくりと痛むのを感じる。

 去年までは、それを見て見ぬふりするために勉強以外にも研究や、趣味のことを沢山して、とにかく何かをするようにしていた。そうしないと死にたくなるから。

 でも今は、どうやら疲れすぎたらしい。何もする気が起こらない。したくても身体が動かない。ぼうっとスマホを握りながら、ただ心に風が吹き抜けていくのを感じる。

 実家の問題が少し解決に向かいつつあり、僕の病気も回復しつつあり、色々なことが少しずつ好転している。たぶん。そうしたら、心の中の穴に気がつく余裕が生まれてしまった。

 誰かと過ごしているときは大丈夫。でも一人になると途端に寂しさが襲う。ぬいぐるみを抱きしめる。涙が溢れる。どうしたんだろう?こころが痛いの。寂しくて、苦しい。

 今までこの穴は色んな行為で埋めていた。人に褒められることから眉を顰められることまでした。今はそれすらもできない。それなのに、それができなくて苦しい、ということが分かる程度には心に余裕が生まれてしまった。身動きが取れなくて、ただひたすらひとりぼっちで暗い穴の中。

 この穴を埋めるものは、あるいは人は、存在しているのだろうか。それとも昔みたいに、忘れるまで動き続けるしかないのだろうか。今度は死ぬまで気づかないように。

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