Do You Understand?

 「普通」のひとって、自分のことを分析したり向き合ったりしないのだろうか。

 巷では性格診断や適職診断が溢れている。就活なんかの時は積極的にそれを受けるよう勧められたりもするかもしれない。Twitterでも、性格診断をやっているひとを良く目にする。遊びの部分が大きいかもしれないけれど、やっぱりどこかで自分のことが気になる、どんなふうに分類されるんだろう、と思う気持ちは多くのひとにあるのかもしれない。

 かく言うわたしもそんなひとりで、目に付いた性格診断は基本的にはやるタイプである。シェアするかはともかく。ちなみに一番気に入っているのは16personalities診断である。なぜかというと質問が多くて毎回同じ判定になるから。というのもあるけれど、一番少ないらしいINFJ型だから、というのが本当の理由かもしれない。書かれていることも当てはまっている気がするし。

 しかし、こんなに性格診断は流行っているのに、冒頭に書いたように「普通」のひとは自分のことについてあまり考えていないんじゃないか、と思うのには理由がある。
 きっかけは、母にカウンセリングを受けてみたらと言ったことだ。家族とはいえ安易に言うべきことではなかったかもしれないけれど、母も何かしら解決すべき問題を持っているように思えたからだ。しかし母は乗り気ではなかった。今さら自分と向き合うなんて疲れる、という理由らしい。
 たしかに還暦の足音が聞こえてきた年齢で、これからの人生のために自分の心を整理して、なにかしら変えた方がいいところは変えていきましょう、なんて面倒だし割に合わない、という考えは理解できる。しかし一方で、自分のことを考えることから逃げてきたからこんなことになってるんでしょう、とも思った。

 こんなこと、とは夫からモラハラを受け、子どもたちは精神的な問題を抱えることになった、ということだ。わたしが父について抱いていた恐怖心や不安について、わたしが成人して話してからやっと問題に気付いたらしい。それ以前に弟も不登校になったりしていたのに。そもそも、わたしが生まれる前から明らかなモラハラのエピソードがたくさんある。それなのに、そんな夫やそれに従ってしまう自分がどこかおかしくはないかと気が付かなかったらしい。

 たしかにハラスメントの被害者は自身が被害を受けていることに気が付きにくいものだ。ハラスメントそのもののせいで自分が悪いと思わされるから。
 でも、ちょっと変だとか、嫌だなとか、そう思ったときに立ち止まっていれば、と思った。そうしたら未来は少しでも変わったのではないかと思う。今さらだけれど。
 母の話を聞いていて、母は確かにモラハラの被害者だけれど、同時にそこから子どもたちを守れなかったという点では落ち度があると思っている。わたしの印象では、仕事に逃げていたのだと思う。忙しくして、何も考えないようにして、自分や子どもたちと向き合わず、家では夫と衝突しないようひっそりと過ごす。
 どうして助けてくれなかったんだよ、気付いてくれなかったんだよ、という思いもある。けれどそれ以上に、そんな人生馬鹿みたいじゃないか、思うのだ。

 せっかく幸せに楽しく生きようと結婚して子供をもうけたのに、家では息が詰まるような毎日で、いつ家の支配者が怒り出すかに怯えて過ごすなんて、本当に本当に馬鹿らしい。生きている意味なんてないだろとすら思ってしまう。そうなってしまったのは違和感を無視したから、仕事を言い訳にしたから、自分に向き合わなかったから。わたしにはそう思えてしまう。

 だからわたしはそんな失敗をするのが怖い。目の前で、こんな人生だけは送るものか、という実例を見続けていたから、死ぬことより結婚や仕事選びにに失敗することの方が怖い。

 そうならないように、今こうして書いているみたいに、自分の好きなことや嫌いなこと、苦手なことや得意なこと、その対処法を考えて、医者や心理士に頼って、なんとか失敗するまいと必死になっている。もちろん人生なんて運の要素も大きいし、流れってやつもあるんだって分かっている。それでもこんなはずじゃなかった、と思うことは死ぬより怖い。だから強迫観念めいた自己分析と対策を続け、未来を心配する。

 でも「普通」のひとはそこまでしないと思う。結婚相手だって相性を真剣に考えているとは思えない。だから色んなところに配偶者への呪いめいた愚痴が溢れている。子どもをどうするかなんてことも、本当はそんなに真剣ではないんでしょう。ふわふわした育児書をなんとなく読んで終わり、あとは雰囲気で周りに流されて子どもに接しているとしか思えない。あるいは自分がされたかったようにしている。そして思い通りにならないことに心配し苛立つ。

 もう少し考えていたら、もう少し向き合っていたら、そんな後悔なんて絶対したくない。それくらいなら死んでやる。母は楽しい人生だよって何度も言うけれど、わたしにはそう見えなかったもの。わたしには自分を誤魔化し続けるなんて無理だ。

 だから、世の中に沢山いる、自分のこととか真剣に考えずに生きているんだろうな、というひとを見ると怖くなる。あんなふうになったらどうしようと不安になる。そしてだんだんと憎しみを覚えてしまう。深く考えずに生きているせいで苦しんでる人間がいるんだぞ、と言いたくなる。お前も誰かを苦しめているかもしれないぞ、と。

 過ぎたるは猶及ばざるが如し、考えすぎが良くないのも分かっている。難しいこと考えずに生きてたい、というひとにちゃんと考えろと強要する気もない。けれどもっと考えておけばよかった、という後悔が死ぬより嫌だから、わたしは考え続ける。

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