倫理、もぐもぐ、モンスター

 倫理観がないとか人の心がないとかなんとか、言いたくなってしまいがちだ。僕の場合は、特に自分に対して。
 死ぬことは別に悲しいことではないと思うし、自殺したいひとはしていいと思うし、実際自分は自傷行為もしている。あとは動物実験もしている。こっちはちゃんと規定を守ってやっているから、ある意味「倫理的」かもしれないけれど。でもやってると人の心消えてくなという気がしなくもない。脊椎動物じゃないと気にしてる方がおかしい扱いされることもあって、僕は大量の大腸菌を増やしては殺してもいるのだけれど、可哀想だ人間のエゴに付き合わされて、とおもう。でもそれを言っても同意してくれるひとはどちらかといえば少ない。

 そんなわけで、倫理とはなんですか、というのは答えのない永遠のテーマだろう。とりあえず現代ではまあこれが模範解答、というものを作っておいて、それを常に問い直し良くし続ける。そんなイメージだ。専門じゃないから盛大な勘違いをしているかもしれないけれど。

 今日は、ODして救急車で運ばれてきたメンヘラなんか治療したくない自己責任だろみたいなツイートを見た。まず自然に感じる気持ちとしては分からなくもない。でもこれを呟けるということは医療関係者の筈だから、職業倫理的にインターネットの海に流していい言葉ではないというのも事実だろう。
 ODしたひとにもしたひとの事情がある。たぶん精神疾患があるから、きちんと治療しなきゃいけない。心の中では文句のひとつ言いたくても。そしてその文句は言っていい場所といけない場所があって、SNSの公開アカウントはアウト。そんな感じ、だろうか。

 でもこの呟きをしたひとはもしかしたら、連日の救急医療での仕事に疲れ切って、もうそんなこと考えてもいられなくなったのかもしれない。精神的に参っちゃって、露悪的なことを言わないとやってらんないと思ったのかもしれない。駄目なことは駄目なんだけれど、でもそういう背景があったら、このひとばっかりを責める訳にもいかない。そんな現場になるような社会も悪いのだ。それにもしかしたら職業倫理についてはあんまり勉強する機会もなかったかもしれず、そしたら学校や資格制度だって責められるべき。

 でもやっぱり駄目なことだから駄目だって言わなきゃいけなくて、でもそんなこと言ったらODしたひとにも駄目だよといつかは(治療中とか治療後とか)言わないといけない。ODしたひとをそうさせる何か(家庭なのか仕事なのか学校なのか社会なのか)もどうにかしなきゃならない。そしたら、そしたら……が無限に広がっていく。

 倫理ってやつは、時間も食えば人手も食うし金も食う。そんなふうに思った。まるで怖いモンスターだ。
 現状、倫理を意識して守ろうと頑張ってる人もいれば、倫理が大事だと分かりつつそうできない人もいれば、倫理何それ?な人もいる。ある分野への理解はとてもあるけれど、別の分野への理解はいまいちな人だっているだろう。
 子どもの権利、障害者の権利、女性の権利、性的マイノリティの権利、あげればきりがないほど考えるべきことがある。だって人間なら全員人権があるし。でも問題は山積みだし。リソースの都合で助けて貰えなかった人たちは先に助けてもらえた人たちが妬ましいだろう。怒りもするだろう。

 人類滅亡したら倫理なんていらなくなるので最も倫理的ですよ、なんて倫理観ゼロみたいな発言もしたくなる。でも倫理は時代と共に変わっていくし。どうしたらいいって言うんだよ?

 こんなこと考えて書いてられるのも僕が暇人だからだ。でも書いても金にはならないから殆ど何も変わらないだろう。権力とかもないし。

 でももう倫理なんていらないと思っている訳ではない。むしろみんなが幸せになったらいいなと思っている。でも倫理はそんなお花畑だけでは通用しないぞとむしろ非情な面を突きつけてくる。

 倫理そのものが、もしかしたら倫理的ではないのかもね。

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