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【日本酒記 その三】而今 Gin蔵にて

 新政を初遭遇にして最上級のX-typeで迎え入れた後は、二杯目の注文だ(前回の投稿【日本酒記 そのニ】新政 Gin蔵にて)。常時百種類ほどあるという日本酒メニューから、「有名なので名前は聞いたことがあるけどまだ呑んだことがない日本酒」を中心に見定めた。よし、続いても評価が高く、インターネットでプレミア価格で取引されていることも多い三重県の地酒「而今」で攻めよう。

 私は今は地元の大阪在住なので、同じ関西の名酒である而今は比較的お目にかかりやすい。しかし、コロナで混乱した世情がどこに向かうか不透明だったこの時期は、呑めるときに稀少な銘柄を呑んだ方が良いという判断から注文した。さて、どの肴と合わせるか。メニュー表の左上に赤文字で「定番」と書かれている「焼き味噌」が気になる。それだけでは物足りない。もう一品何が良いか迷っていると、「魚介なめろう」を発見してしまった。これだ。二つを注文。

 開店時間の四時に入店してから二十分ほど経つが、後客は来ない。やはり皆さん、緊急事態宣言直前の雰囲気を察知して外出や飲食を控えているのか、普段通りなのか。カウンターには私独りが座る。カウンターの向こうに立つご主人と少し話をさせて頂いた。

「やはり人出は少なくなってきてますか」

「そうですねえ・・・。まだ時間が早いこともありますけど、少し減ってますかね」

「こんな時期に来てしまって申し訳ないかな、なんて思ったりもするんですけど、静かに独りで呑んで、お金を落として帰っていきます(笑)」

「いやあ、有難いです(笑)」

端正な文字で書かれた「而今」

 そんな会話を交わしていると、而今と肴が登場。堂々と、かつ、敢えて達筆とは逆をいく明朗とした筆文字のラベルが存在感を放つ。瓶を見ながら呑むことの幸せを感じずにはいられない。私が頼んだのは、「八反錦純米吟醸無濾過生」だ。
 丸みのある冷酒グラスを凝視する。色は無色透明。香りはほとんど感じない。僅かに甘みが香る程度か。一口含んでみる。最初の口当たりは、ややピリッとした痛快な感覚。先に呑んだ新政の静電気のようなそれとも違う。痺れる感覚ではない。そして追いかけるように、ややフルーティーな香りと食感が味わえる。冷酒ながら、御燗のような鼻に抜ける爽快感があるのが心地良い。以下、銘柄の詳細、スペックを記す。

而今 八反錦 純米吟醸 無濾過生
製造:木屋正酒造
原料米:八反錦
精米歩合:55%
アルコール度:16%

 焼き味噌となめろうで静かなカウンターは踊る。独り静かに酒と食は進む。杓文字に乗せられた味噌と、程好く叩かれた鰺は、残り少ない盛岡での時間を引き留めるようだった。調味料として味噌を使うことはあっても、そのものを肴として食すことはあまりない私は、これは立派な料理として成立するということを学んだ。また、なめろうは魚の種類を変えたり、叩き具合を調整することで顔を変え、各家庭や居酒屋で一つとして同じ出来栄えはない。僅かな時間で、静かながらも心は宴会模様だった。

 店を出る。お会計の際に、先程、日本酒の銘柄の数を教えてくださった男性店員に、玄関のラベルが貼られた圧巻とした壁、思わず足を向けずにはいられなくなる見事に陳列された瓶の棚を、記念に撮影して良いか尋ねてみた。すると、快く許可を頂けた。

玄関に飾られたラベルの数々


 写真ではなく、またこの景色を直に見る為に、ここに来よう。誓いの意味が込められた写真は、次へ繋がる想い出となった。

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