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【日本酒記 そのニ】新政 Gin蔵にて

 前回の投稿までは、緑風荘での体験を、検証や考察を交えて記した。まだお読みでない方は是非、読んでいただきたい(怪異を訪ねる【緑風荘】その一)。

 今回は、気まぐれで投稿している日本酒記シリーズの第二弾である。怪異を訪ねる合間に、愛してやまない日本酒と肴を堪能することも抜かりないのが私である。緑風荘に別れを告げた後、その足で盛岡駅に戻っていた私は、夜七時発の東京駅行きの新幹線に乗るまでの間、夕方から居酒屋を楽しんでいた。今回はその記録である。

 夕方四時。昼過ぎに盛岡駅に到着後、夜の居酒屋訪問まで街を歩いてみた。第一回目の緊急事態宣言直前の盛岡は、夕方でもほとんど人が居なかった。思い返せば、岩手県はコロナウイルスの最初の感染者が確認されたのが他県よりも遅かった。「不敗神話」のような雰囲気がインターネットやSNSで流れていたことが懐かしいが、それほど感染症対策に県民が気を配っていた証であろう。場違いな感覚に陥ったが、お別れまでの時間を独りで静かに過ごすことにした。
 目指す居酒屋は「日本酒バル Gin蔵」。盛岡駅から東へ向かい、大通りに出る。以前に写真を載せた櫻山神社の前を横断する道路が大通りであり、そこを起点にすれば、さらに西へ進むと二車線に分かれたアーケード付きの歩道が現れる。盛岡駅周辺で最も賑わいを見せるメインの繁華街なのだろう。余所者の私はすぐにそんな印象を持った。大通りから北へ抜ける小道がある。そのまま進めば中央通りに交差するのだが、その手前に件の居酒屋は位置する。大通りの賑わいを残しつつ、交通量の多い中央通りに面するわけでもない、アクセス抜群の中間地点で、記憶に留め易い。

正面玄関の壁にはビッシリと日本酒のラベルが貼られている

 訪問のきっかけとしては、盛岡駅近くで日本酒の種類が充実している居酒屋を調べてみた結果、いくつかの候補のうち、こちらが特に気になった。現在は営業時間が変更になっているようだが、私が訪問した時は四時開店であった。新規開店してまだ年数はそれほど経っていないとのことだが、穴凹のあるコンクリートの柱に挟まれた正面玄関は、しっかりと重厚に街に佇み風格がある。さあ入ろう。

 一歩踏み入れて店内を眺めてみると、私以外に先客は居ない。開店すぐの入店とご時世も影響しているのだろう。ゆっくり独り酒を嗜むには丁度良いか。大人しくしますので、御免下さいといった感じだ。入口右手すぐの窓際と店内左手奥にはテーブル席が広がっており、中間に厨房とL字型カウンターがある。二階には個室と座敷も多数あるとのことだ。宴会にも対応しており、外観の印象よりも店内は汎用性を感じさせる。若い男性店員の案内で私はカウンターに座った。
 さて、早速、日本酒を注文する。メニューは料理も酒も充実しており、しばらく眺めていたくなる。岩手県の地酒を呑むか迷ったが、同じ東北地方で飛ぶ鳥を落とす勢いのある秋田県の地酒、「新政」が目に入った。吞んだことがなく、今、注文しなければ、次に東北に来ることがないかもしれないと思い、稀少な酒を選ぶことにした。
 注文を伝えつつ、常時何種類の日本酒を取り揃えているのか、さりげなく男性店員に尋ねてみた。

「限定のお酒もあるので、日々、数は変わりますが、百種類は置いています」

 種類は多すぎても迷いが生じるので、団体客がそれぞれ銘柄を選ぶときにも、独り吞みの客が熟考するのにも適切な数なのではないだろうか。また来たくなる言葉を頂いた。カウンター内には店主と思われる男性がおり、まずは御通しが提供された。

 小盛り三点セットである。切り干し大根の煮物、鴨ロースは一目でわかるし記憶にあるが、申し訳ない、もう一品はわからない。コロナ渦で極力会話を控えた方が良いとの判断から、静かにさっさと食べて、さっさとお金を落として居酒屋を応援して帰るを実践していたので、口数は少なめにしていたからだ。加えて、居酒屋探訪初期の私は、お店の方との会話に手探りだったことも相俟ってのこと。
 ほぼ同時に、待望の新政が目の前に運ばれてきた。今回、私が注文したのは、「No.6 X-type」。

お通しと満々一杯に注がれた新政

 新政酒造ではいくつかのシリーズが存在するのだが、生酒の定番として「No.6」シリーズがある。ホームページの記載に依れば、「6号酵母の魅力をダイレクトに表現することを目的に醸造される」シリーズとのこと。そのなかでもX-typeは最上級モデルとされており、単語の"excellent"から”X"の文字を名前に冠したというわけだ。特定名称酒としては純米大吟醸クラスに相当すると考えて良いらしい。
 通常、日本酒の瓶はラベル裏に品質などの詳細が記載されているが、No.6シリーズは原料米名などの表記は敢えて行っていない。その理由として、その都度、農家による米そのものの出来を重視するため、原料米の品種は必ずしも一定していないからとのこと。しかし、必ず秋田県産の酒造好適米を使用しているようだ。以下、私が呑んだスペックを記す。

原材料名:米(秋田県産)、米麹(秋田県産)
精米歩合:40%(掛米、麹米ともに40%)
原米名:酒造好適米100%使用
アルコール度数:14%

 その他、新政酒造にご興味のある方は是非、詳細を確認できるのでこちらにアクセス頂きたい(Collection|新政酒造株式会社オフィシャルサイト (aramasa.jp))。

 見た目は無色透明。香りは如何ほどか。僅かに甘い匂いだ。まずは一口。(ん!?)唇に静電気が走ったような感覚がした。これまで日本酒を呑んできた経験のなかで、初めての口当たりだ。酸味という表現とはやや異なるような、電流が口へ駆け込むような清らかさ。思わずもう一口。うむ。やはり痺れがある。味は甘味が全面に押し出されているようで、ややフルーティーさもあるように感じた。空かさず、三点盛りと併せてみる。美味い。流石に勢いがある酒と言われるだけのことはある。

 衝撃的な新政との出会いとなったが、お店では、日々、取り扱う銘柄が変化するにも関わらず、このタイミングで戴くことができたということは、これも亀麿様が築いてくれた御縁なのかと思えた。未だに、ザシキワラシを引き摺っている私であった。さて、次の注文だ。(続く)

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