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怪異を訪ねる【緑風荘】その一
二〇二〇年(令和二年)、年が明けて今年も新たな一年が始まったと思った矢先に、世界に不穏な空気が流れた。中国で何やら未知のウイルスが発生したのではないかとメディアが報じたのである。当初は、パンデミックにはならず収束するだろうと楽観視されていたが、そこから三年半もマスク着用が推奨される世の中になるとは、私には予想できなかった。新たに発生した感染症は新型コロナウイルス(COVID-19)と名付けられた。
事態が中国国内で収まることはなく、ついに日本でも感染者が確認されて、感染者の数は日々、更新されていく。諸国は人の往来を制限するのかどうか、水際対策に追われることになった。そしてついに、四月七日、最初の緊急事態宣言が七都府県に発令された。新型コロナウイルス対策の改正特措法が成立…緊急事態宣言が可能に : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
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ザシキワラシ伝説で有名な岩手県二戸市金田一にある緑風荘に、私が初めて訪れたのは四月三日。緊急事態宣言が発令される僅か四日前のことである。訪問する計画は前年に立てており、宿泊の予約は十二月に完了していた。それから数か月後に、世界が大混乱に見舞われた。
春先前からコロナウイルスは既に猛威を振るっており、私は訪問を躊躇った。しかし、予約が取りづらい旅館であること、独り旅であること、それ故に常にマスクを着用しての移動中や食事中は対面での人との会話が発生しないことを理由に、粛々とザシキワラシ調査に赴くことを決断した。
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朝八時半過ぎ。東京駅で盛岡行きの東北新幹線のホームに立つ。東北に行くこと自体初めてであり、楽しみな反面、御時勢を考慮すると申し訳ない気持ちもある。しかし、行くと決めた以上は前向きに風土を感じて歴史を踏みしめようと改めて思った。
定刻通りに「はやぶさ」が到着して、新幹線の窓際の座席に座る。東海道、山陽新幹線の乗車経験しかない私にとっては、明るめの薄茶色と灰色を基調とした車内の内装がとても新鮮に感じられ、座席の正面にあるネットに挟まった冊子「トランヴェール」を時折読みながら、東北へ向かう車窓から早朝の景色を楽しんだ。
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十一時前に盛岡駅に到着。二戸市へは夕方に向かう予定だったので、それまでの間、昼食を摂ることも兼ねてしばらく岩手県の中心街を散策する。飲食店が建ち並ぶ繁華街は、駅から少し離れた北上川を越えた東方面に位置する。正午近い時刻でもあったせいか、人気が少ないとは特に感じられなかった。盛岡城跡に櫻山神社、ルネッサンス様式が絢爛な岩手銀行赤レンガ館などの名所を巡回して時間を過ごした。
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盛岡駅周辺を散策すると、時刻は既に午後二時。盛岡を後にして、まずは二戸駅へ向かう。いわて銀河鉄道へ乗り、凡そ一時間。そのまま金田一温泉へ向かっても良かったが、市内の看板である名前が付いた駅を素通りするのもどうかと思い、一度、下車してみた。
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駅構内は想像以上に広かった。僅か一時間程の散策ではあったが、先程まで滞在していた盛岡駅周辺とは違い、一本当たりの道路は広く、その分、繁華街でもない為に喧騒の違いと大地の息遣いを感じ取ることが出来た。
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四時半過ぎ。二戸駅から金田一温泉駅までは電車で数分。いよいよ緑風荘へ向かうことにした。(続く)