いい攻撃はいい守備から
忙しいと言うのは好きではないけれど、忙しい1週間だった。
優先順位を付けて、やらないといけないことをさばいているうちに、あっという間に週末になっていた。
おまけに土曜日は親戚の田植えの手伝いがあった。
往復2時間の運転とちょっとした肉体労働を経て、それでもスタジアムに向かった。
それでも、ではないかもしれない。
むしろ、だからこそ、と言ったほうがいいかもしれない。
日常に疲れたときこそ、スタジアムの非日常を待ち焦がれている自分がいることを感じる。
鹿児島ユナイテッドFCが今年、調子がいいからというだけではない。
勝敗にかかわらず、最後まであきらめない姿勢を見せてくれるからなんだと思う。
今シーズン初めてのナイトゲームはとにかく楽しみだった。
雨が降らなかっただけでもいい
スタジアムに着いたのはキックオフの1時間ほど前。
普段は2時間ぐらい前には着くようにしているのだけれど、さすがに慣れない田植えのあとは身体がだるかった。
心配していた天気はなんとかもってくれて、ほどよい曇りだった。
しかも直前まで小雨が降っていたこともあって、ほかのサポーターたちもゆっくりめの来場だった。
そのおかげでスタジアム到着が遅れても、バックスタンドのいつも座る辺りの席は空いていた。
席を確保するといつものようにスタジアムをぐるっと回って出店が並ぶユナマルシェへ向かう。
この日から発売された「ゆないくーなりきりファンキャップ」をかぶった子どもたちの姿が目立つ。
そういえば、子どものころは夜に出かけるというだけで、なぜかテンションが高くなっていた気がする。
いや、大人になってもそれは変わらないかもしれない。
そのせいなのか、スタジアムの熱気もいつもより高めに感じる。
そんなことを思いながら注文したのはとろとろなんこつチャーシュー丼。
自分の中ですでに定番化しているメニューは、やっぱり安定しておいしかった。
食べ終えて、バックスタンドに戻ると心地いい風が吹いてきた。
梅雨のさなかに雨が降らなかっただけでもありがたいけれど、湿気を連れ去ってくれる風が試合への期待を高めてくれた。
安心して見られる
鹿児島ユナイテッドが主導権を握って始まった試合は前半12分に動いた。
米澤選手が、らしい動きでボールを奪って、ゴールを決めた。
こうなると、今年のチームは安心して見ていられる。
前半のうちに2点目を奪って、後半にも1点を追加して、試合は3-0で終わった。
去年の開幕戦で2-0のリードから3点を奪われて逆転負けしたのを考えると、感慨深いものがある。
この日は3点取ったことに目を奪われがちだけれど、守備が安定していたおかげで勝てたんだと思う。
特に前半32分のGK白坂選手のセーブは鳥肌ものだった。
クロスをパンチングして倒れ込んだあと、そのままの姿勢で相手のシュートを足で防いだ。
決められていれば1-1と、試合が振り出しに戻る場面だったから、相手に流れを渡さないという意味でも大きな価値があった。
そのあとも一人ひとりが粘り強く身体を張ったり、組織的に相手を自由にさせなかったりと、しっかり守り切った。
大嶽監督が言うように「いい攻撃はいい守備から」が体現された試合だった。
少しずつ前へ
「いい攻撃はいい守備から」というのは別にサッカーに限ったことじゃない。
仕事にだって、守備の局面と攻撃の局面はある。
なにがそうなのかと言うのは難しいけれど、新しいことや普段やらない仕事はどちらかと言うと、攻撃の局面。
反対にルーチン的な仕事は守備の局面とみていいと思う。
最近は特にいろんな物の値段が上がったりしていて、どんな業種でも今まで通りのことだけをやっていたら業績が良くなるということはたぶんない。
そうだとしたら、やっぱり攻撃の局面は必要なんだろう。
少なくとも僕自身は自分の仕事を考えるとそう思わざるを得ない。
でも、守備をおろそかにすることはできないし、第一に考えないといけないと思ってる。
鹿児島ユナイテッドの話に戻る。
この日は3ゴールのうち、2点はセットプレーの流れからだった。
コーナーキックのときに2人立って、ショートパスを織り交ぜる場面もあって、工夫しているのが見て取れた。
たぶんだけど、今年のチームは立ち上げのときにまず守備組織の構築を最優先にしてきた。
攻撃に関して言うと、シーズンが進むにつれて、ビルドアップをより丁寧にやるようになったり、この日のようにセットプレーに変化をつけたりするようになってきた。
少しずつ、でも着実にチームは前に進んでいるのを感じる。
だから勝点を順調に積み上げられている。
繰り返しになるけれど、それができるのは守備のベースがあるからなんだろう。
仕事や普段の生活でも大事なのは同じことなんだと思う。
新しい取り組みを始めると簡単に結果は出ない。
このまま進んでいっていいのか不安にもなる。
でも大事なのはまず守備の局面をしっかりこなしつつ、攻撃の局面を少しずつ前に進めること。
それができれば、きっと大丈夫。
この日の鹿児島ユナイテッドには、そんなふうに考える勇気をもらった。