豚モツ業者が検証する『ベトナム人の豚盗難事件』 その4 Wedge の記事①
このぼくの豚盗難事件の検証は、事件を詳細に調べることなく、一般的な屠畜の流れに照らし合わして書いている。しかし書いていればやはり細部に興味を持ってしまい、いくつかは検索して読んだ。多くは、流れだけを書いた記事だが、詳しく書かれた面白い記事もある。ぼくが読んだ中で、これはと思ったのは、11月7日のWedge REPORTの記事。詳しくて、読みやすかった。
今回はこの記事に基づいて書いていく。
この記事は2ページに分かれているので、それに合わせて2回に分けて書いていく。今回は1ページ目を追っていく。
群馬県では約720頭の豚の他、約140羽の鶏、約6000個近いナシの盗難があったという。加えて、埼玉で約130頭の豚、約5000個のナシ、栃木でも約3700個の柿などが盗まれている。
記事の冒頭であらましの説明があり、そのあとに上記の盗難量が書かれている。これを見ると、いかに豚が盗みづらいかが分かる。ナシ1個よりも豚1頭盗む方が儲けが大きいので、どうせ車を出動させて見つかる恐れのある暗い農家周辺をうろつきまわるのなら、豚の数を多くしたいところだろう。しかし豚は、ナシのようにパッともぎ取って車に放り込んでおとなしく運ぶわけにはいかない。この搬送のむずかしさは、『その1』に書いた。
記事には、2軒の民家で同胞たちと同居していたとある。なるほど。ぼくはアパートを思い浮かべていたが、民家で、それも同胞たちで周囲を占められていたのであれば、屠畜作業はやりやすい。
「ベトナムには、お祝いのときなどに子豚を丸ごと焼いて食べる習慣があります。『ティット・クアイ』(Thit Quay)と呼ばれる料理です」
日本のスーパーなどでは普通、子豚は丸ごと売られていない。そこで日本にいるベトナム人たちが、子豚を売るビジネスを始めたようなのだ。
記事はよく調べられていて、世界の多くの国では原型に近い形の肉食の風習がある。ぼくもときおり、韓国人のお客さんに豚の頭を、アメリカ人のお客さんにクリスマス用の鳥1羽丸ごとを売っていた。もっとも鳥は専門外なので、手数がかかって儲けがないので面倒な仕事だった。ともかく、上記の記事で分かるように、需要のあるところには供給者が出現するということだ。もちろん子豚だけを食べる国などないだろうから、それだけ多くの豚肉が食べられているということだろう。記事内には、「ベトナムは世界有数の豚肉生産国だ」とある。そして、
ベトナムの農民は皆貧しいので、自分たちで食べるために豚や鶏などを飼っているのです。田舎生まれのベトナム人なら、豚だって普通にさばけます。
食べる習慣があれば、調理の技術も発達する。日本だって、普通の会社員が、週末などに趣味で、魚を3枚におろしたり、活け造りしたりすることも珍しくない。
この事件は、屠畜というものが日常からまったく隔絶されたものだったからインパクトがあったのだろう。「豚を殺して住居でバラバラにしたって!?」と……。これがもし、魚を盗んできてさばいて売り渡していた、という事件なら、それほどの衝撃はなかったはずだ。
次回はこの記事の2ページ目を追っていこうと思う。
(つづく)