俺とモンスターファームとヘンガーと
先日、Switch版の初代モンスターファーム(以下MF)を購入して小学生以来25年ぶりにプレイしている。
なぜ今更MFだったのか、その結果どんな感情を得たのか、初プレイ当時の事も交えつつ書いていく。
MFというゲームについて今は詳しい説明を省くが、掻い摘んで書くと、
・モンスターを育ててバトルや探検をする
・CDデータを読み込んでモンスターを生み出せる
というゲームだ。
詳細を知りたい人はwikiのリンクを貼るので参照されたし。
当時MFを購入したのは、確か友人宅で遊ばせてもらったのがキッカケだったと思う。発売して1年以上経過しており、攻略本とかも出回り始めた時期だった。
小学生だった俺は以下を目標にプレイしていた。
1.四大大会(要は最高ランクの4つの大会)の制覇
2.伝説のモンスター「ヘンガー」の入手
1.四大大会の制覇について
大前提として、MFは育成シミュレーションよろしく時間のかかるゲームだ。
なので、ゲームに対する制限の厳しかった我が家では一体のモンスターを育て上げるのに数ヶ月を要しており、また当時の俺にMFは若干難易度が高く、四大大会どころか最高ランク2-3歩手前で寿命を迎えてしまい、いつも悔しい思いをしていた…。
2.「ヘンガー」の入手について
とにかくヘンガーというモンスターが死ぬほど好きだった。
見た目は完全にロボットで、普段はアダムスキー型のUFOみたいな可愛らしいイデタチだが、何と戦う時だけはメカメカしいSEと共にスリムな人型に変形するのだ!
そのデザイン、SE、モーション全てに心奪われてしまったのだが、残念ながらヘンガーは入手条件がやたら厳しい。
簡単に説明すると、ランダム要素の強いダンジョンでキーアイテムを4つ入手し、それがフラグとなって参加できるようになる大会に優勝して最後のキーアイテムを貰い、かしこさをクソ上げたモンスターを人柱に「ヘンガーの印」とかいうワケわからんもんを付けに行き、それらをまとめて合体させる必要がある。あゝめんどい。
大会も中々上位に行けず、憧れのヘンガー入手も時間がかかる事が見込まれる。そんな悪い状況に拍車をかける出来事が発生した。中学受験が始まり、5年生以降は塾と勉強漬けになったことで、ゲームに費やせる時間が更に減ってしまったのだ。
とは言え悪い事ばかりではなかった。とあるアイテムが俺の育成を大きく前進させた。
それが「トロカチンEX」だ。
トロカチンEXは幾週かの寿命と引き換えに「ちから」と「命中」を爆上げする、所謂ドーピング薬で、これにより以前より短い期間で強力なモンスターを育成することができるようになった。
結論だけ書くと、トロカチンEXでドーピングしたモンスターで、一つ目の目標だった四大大会を全て制覇した。
その瞬間は本当に嬉しかったし、他のモンスターでも同じ薬を使用して簡単に且つ短期間で四大大会を制覇する事ができた。短期間で強力なモンスターを育成できるというのは、リアルの時間が制限されていた当時の俺には非常に都合が良く、その後育てるほとんどのモンスターにトロカチンEXを投与していた。今考えると恐ろしい。
しかし、その強力無比なトロカチンEXにも欠点があった。
当たり前のことだが、上がるステータスは「ちから」と「命中」のみなので、育ち上がるモンスターは皆同じような能力になってしまい、しかもそれで勝ててしまう為、作業感が強く飽きやすかった。
更に、小学生ながら当時の俺は「薬に頼って寿命を削って勝たせるのってカッコ悪くないか?」と考え始めており、心情的にも薬に頼ること自体にネガティブになりつつあった。
もう一つは、残された目標であるヘンガー入手の役には立たないこと。
先述の通り、ヘンガー入手には諸々の条件達成が必要だが、その悉くに高い「かしこさ」のステータスが必要で、トロカチンEX含めかしこさをあげる薬は存在しなかった。
俺は本当にヘンガーが欲しかったので、子供ながらに自分の与えられているゲーム時間で、0からかしこさの高いモンスターを育てるのにどれくらいかかるから試算したが、その時は約半年かかると弾き出してしまった。
これはかなり厳しい結果だった。
理由を話すとちょっと暗くなるが、当時中学受験がマジでキツくて月に数回は自殺や家出を妄想する位に精神的に追い込まれまくっていたので、そんな状況で自分が無事かも分からん半年後の希望に向け、今から地道にモンスターを育てるのはどだい無理な話だった。
もう少しゲームする時間があれば…と何度も思ったが子供の俺にはどうにもならない、今後俺は一生ヘンガーを育てることはないのだと絶望していた。
他の人からすればこんな事で絶望するのは馬鹿馬鹿しく見えるかも知れないが、当時追い込まれていた俺にとって僅かなゲーム時間は本当に希望の時間だったし、その希望を奪われたのだから実際絶望していたんだと思う。
そんなワケで俺はヘンガー入手は諦めた事で目標を失ってしまった為、MFを起動することも無くなってしまったのだった。
そして時は先週に戻る。
MFをプレイした日々から約25年も経ち、当時の事を思い出すこともほぼほぼ無くなっていたが、たまたまYouTubeのおすすめに釈迦さんの2年くらい前のMFプレイ動画が上がってきた。
在宅勤務中のラジオ感覚で、久しぶりに雰囲気だけでも、そんな軽い気持ちで再生した。
モンスターが仕事をミスりまくり「ふざけんな!」、奇怪なモンスターに出会って「なんだコイツ!」、修行で技を覚えてきたら「偉い!」、命中率の低い技で逆転を狙い「当たってくれ〜!」
釈迦さんのリアクションは、小学生の頃の俺そのものだった。それが何故か嬉しくて最後まで早送りせず見てしまった。
結局、釈迦さんは僅か数体の育成で薬も使わず四大大会を制覇してしまった。
当時の俺はあんなに苦労したのに、釈迦さんは流石だなァ。でも今なら俺も昔よりも効率良くできるんじゃないかな…。
そんな事をぼんやり考えると同時に、かつて諦めてしまった目標を思い出していた。
その日の夜、俺はSwitch版MFをダウンロードした。
大袈裟かも知らないが、25年前に子供だった俺が夢見てたことを実現したくなったのだ。
目標は以下の2つ。
①薬無しで四大大会制覇
②ヘンガーの入手
まずやるべきは金策だ。大人の俺は効率良くやらせてもらう。
まず探検用モンスターの育成から始めた。ちからとかしこさが伸びやすいウォーロックス(ガリ×ゴーレム)を入手し、ひたすら仕事でステータスを伸ばす。PS版と違いロードが早くサクサク進む。既にクソほど楽しい。早く探検に行きたい。
数時間で各ステータスが目標に達した。かしこさに至っては今まで見た事ない数値だ。
早速探検に向かう。途中迷子にもなるが、数多の換金アイテムとレアアイテムを獲得。獲得する度に子供のように喜んでいた。
金の目処がついたので、次はヘンガー入手に必要なキーアイテムの獲得だ。流石に換金アイテムほどスムーズに行かないもののこれも数時間で全て獲得。ここまで1日で進めることができたが、当時の俺のゲーム時間なら何ヶ月かかっていたのか…。
次にヘンガーの印を付けたモンスターの作成。ウォーロックスに不足していたかしこさを積み増し、探検の指定ポイントでフラグを立て、無事印が付く。初めて見るヘンガーの印に興奮が止まらない。
残りは最後のキーアイテムを貰える大会の出場だが、ウォーロックスではランクが足らず、しかも寿命ギリギリなのでこれ以上の酷使は困難だ。
なので1つ目の目標達成の過程で該当の大会に参加することにする。
さて、どのモンスターで目標達成するか?
隣にいる妻に聞いた。
「かっこいいモンスター、かわいいモンスター、変なモンスター、キモいモンスター、どれがいい?」
「うーん、かわいいモンスターかな」
ピクシータイプにした。久しぶりなので育てやすさも考慮しエンジェル(ピクシー×ガリ)を選択。
ひたすらに命中回避かしこさを鍛え続ける。
体力、ストレス回復は極力アイテムで行い、寿命への影響を減らす。薬を使わない以上、長く生きさせることが重要だ。
大会では、低ランク時は火力不足感が否めず、その上さして避けない割に防御が紙なので常にギリギリの戦いを強いられる。でもその緊張感が楽しい。
近接が強い相手には遠距離キープ。
回避が高い相手には命中技で削る
鈍重な相手はガッツダウン技で封殺。
昔も最初はこうやって工夫して戦っていた。
マメに体力、ストレス管理をしたお陰か、4歳まで何事も無く成長(ドーピングするとこの辺で寿命)。
効率良い仕事、修行に取り組んだ成果もあり、命中回避かしこさも高い水準をキープ。しかし最高ランク挑戦には心許ない為、更に1年間ひたすら仕事&修行で研鑽を積む。
その過程で、ヘンガー最後のキーアイテムを入手できる大会に参加。問題無く勝利しキーアイテムを獲得。この時点でヘンガーを生み出す準備が整った。
しかし今は四大大会制覇を優先。はやる気持ちを抑えるのがつらい。
5歳を迎えたがまだ寿命を迎える様子は無い。念には念を入れ鍛える期間を半年追加する。
そして遂に四大大会挑戦。こっちのモンスターは回避は999だが丈夫さは1。何か当たったら即死するランク帯。何ならそのままマジでモンスターが死ぬことがあるので本当に怖い。
小学生にとって数ヶ月を注ぎ込んだモンスターで、死のリスクもあるギリギリの戦いをしている時の興奮は何にも代え難かったが、大人の俺も昔と同じレベルの興奮を得られているのだろうか? そうであって欲しいと願うばかり。
なんやかんやありながらも四大大会制覇。
俺はやったのだ。目標通り薬無し、しかも初期値から。正々堂々このゲームを攻略した。
エンジェルはまだ寿命が残っていたので、ヘンガーへの合体に使用する為に能力を限界まで上げることにした。結果、7歳4ヶ月で引退。
ピクシー種の平均寿命が250週なので、延命アイテム無しと考えるとかなり長寿だった。
寿命を迎えたエンジェルを冬眠させ、ヘンガーの印を付けたウォーロックスと合体させる。合体の隠し味は、キーアイテムを5個集めることで手に入る「土偶」だ。
MFの合体演出は簡素だ。
氷漬け(冬眠)のモンスター2体がぶつかり、氷の中から合体後のモンスターが出現する。
そんな演出にも関わらず、そこに現れたモンスターを目の当たりにし、俺は本当に感動していた。アダムスキー型UFOの可愛い体躯、緑色のモノアイ、霞んだカーキ色。
25年前に俺が夢見たヘンガーそのものだった。
今、俺の隣に25年前の俺を連れてきたかった。薬無しで4大大会を制覇した時もそうだった。この瞬間を体験させてあげられたら、どんなに良かったか。
ヘンガーを入手した夜、ベッドで横になりながらずっと考えていた。
25年前の俺は、今の俺と比べて時間もお金も、自由も無かった。そんな俺に、薬無しでの大会制覇を見せたらどうなるだろうか、ヘンガーを生み出す瞬間を見せたらどうなるだろうか。
きっと、今日の俺とは比較にならない感動を得たに違いない。一生忘れられない体験になったに違いない。でもそれを俺は2度と体験することができない。その原因となった当時の境遇に対する怒りは今でも止められないし、そうは言っても今更過去を変えることもできない。昔の俺が本当に不憫だった。
「お前はいつか必ずヘンガーを手に入れられる。最高だぞ。」
その一言をかけてあげたい。
色々な感情を処理しきれず、少しだけ涙が出た35の夜だった。
今日も俺は仕事の後にヘンガーを育てている。
もう5歳も半ばだが、黄金モモも卵カブリも食べさせた。もともと長寿種なので、寿命までしばらくの時間がありそうだ。
あの時の俺が満足できる位には、ヘンガーとの時間を楽しんだっていいだろう。
追記
あの後、薬無しで育て続けたヘンガーは9歳以上生きて、無事全ステータス999になりました。
こうして俺のMFは終わりを迎えた。
たった1週間程度の出来事だったけど、一生忘れらない日々だった。