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Photo by
poconen
4.マトリックス男
「あれっ?あの人だ。」
飛行機であれ、新幹線であれ、窓にもたれ掛かれるのを好む。
窓際族。トイレに行くのは何度も悩むが、それでもこの席を選ぶ。
性質上早めに機内に乗り込み、
新聞をもらって寝る体制準備万端だった。
大体の人が着席し、機内ではCAさんが処々最終チェック中。
左隣の通路側の席に一人の大学生くらいの男の人がやってきた。
出国前のロビーでみた
「マトリックス男」だった。
そんなに背も高くないのに、
5年ほど前に流行っていたやけに長い黒のロングコートを着て、
似合わないわぁ~となんとなくぼんやりと
眺めていたその人だった。
大学生なんだろうか?一人旅か?
明らかに私よりは若い雰囲気を醸し出している。
基本的にあまり人に興味のない私だが、
隣に座る=私と同じツアー客であることは間違いがなかった。
ブタペスト行き、これから約12時間ほど
この恐らく一緒のツアーである人と隣で過ごすので一応コミュニケーションをはかろうか否か考えていた。
ほどなくしてどちらからともなく、
「一人旅ですか?」という話を切り出した。
お互いどうやら人生初の海外一人旅。
私は27歳、彼は25歳。大学院を卒業する年に一人卒業旅行だと言った。
この人は、私が数か月前に体験した突然の父の死や、
東京で仕事をして退職したこと、その会社であったこと、
なぜこの飛行機に搭乗しているのか、私の物語の背景を知らないことに
少し安堵した。
。
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