「サイコパスから身を守る唯一の方法は、自身が相手を上回るサイコパスになることだ。心に鉄壁の防御を巡らせ、敵の精神を完膚なきまでに粉砕するのだ」
ーーーP. J . コリンス「わが血肉たる思想」
彼はその彼曰く有名だという一節をつぶやいて、夜の街を彼の戦場へと戻っていった。そして敗北した。気がついた時には彼は養育不適格を裁判所から言い渡され、親権をはく奪されており、彼の妻は夫の暴力の被害者として周囲の同情を一身に集めていた。彼は打ちのめされ、体調を崩し、仕事を辞めた。すべてを失った彼のもとに、子供が生まれたときに止めた煙草だけが旧い友人のように戻ってきた。
彼はある日私の家にやってくると、窓を開け煙草を付けた。そして
「オールド・フレンド、消し炭とは俺のことだったのか」
とぼんやりとつぶやいた。私は黙って彼を見ていた。彼が煙草に向かって語りかけているのか、私に向かって語りかけているのか分からなかったからだ。もし私に対してだったとしても、なんと返答してよいのかわからなかった。
「空が、青いな」