旅館
本日は遠方のところ本当によくいらっしゃってくださいました。改めて御礼申し上げます。
年配の仲居さんが、丁寧なあいさつで迎えてくれた。
我が家は遊び好きで、なにかと外へそとへと出かける。色々な遊びをするが、なかには宿泊が必要なこともある。アウトドアをこよなく愛する我々としては、第一希望はキャンプでのテント泊だが、そうもいかないことだってある。するとセカンドチョイスとして登場するのは、ホテルよりも断然,、旅館や民宿だ。
館内の説明を一通り済ませると、仲居さんは、それではどうぞごゆっくり、と云って去っていった。緊張の糸が切れたように、ふぅ~と息を吐く子どもたち。さっそく、あっちこっちへと活動を始める。
旅館の下へも置かぬ丁寧な対応に、子どもたちはかしこまっていたようだ。チェックインから部屋へ入るまで、所在なさげに息をひそめるようにしていた。
それにしてもいい部屋だ。
和室の窓辺に小さなテーブルがひとつと椅子が2脚のスタンダードな設えだが、どこか広々としてゆったり感がある。美しい白木に見事な彫刻の施された欄間や長押。色彩を抑え部屋の雰囲気を演出する品のある戸襖。妻とふたりで、いいところだね、いい景色だね、畳がいいにおい、素敵な旅館だね、などと味わっていた。せっかくいい気分でいるのに、すでに部屋はドタンバタン大騒ぎである。振り返れば、さっそく部屋は座布団が飛び交い、子どもが運動会を始めている。わくわく感をそのまま身体で表現しているのだろう。子どもの様子をみれば、楽しいか楽しくないか一目瞭然だ。
現在、コロナ感染の状況は極めて厳しい。
しかし、何より宿の方々との交流を好む我が家としては、お気に入りのお宿のお役に立ちたいのである。
あの女将はどうしているだろうか。大将は元気でいるだろうか。板さんは腕を振るえているだろうか。決して言葉をくずさず眉一つ動かさない真面目な顔で突拍子もないギャグをブチかます、あの仲居さんはご健在だろうか。
この疫病のなか、既に数軒のお気に入りの店舗や旅館やホテルが営業をあきらめてしまった。家族の思い出や文化を彩るお店たち。残念というだけでは云い表わすことができない。忸怩たる思いは晴れることがない。
状況や流れを詳細に分析し、少しでも役に立てることを考え続けている日々である。
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