捨てられた犬。
人生で印象に残った仕事や出来事を綴った。マイストーリーシリーズ。今回は僕の仕事。介護経験におけるヤバイ事例を紹介しようと思う。
あれは夜勤中のことだった。
利用者の状態を把握し、食事の配膳も済ませて一段落した時の出来事。一本の電話がホールに鳴り響いた。
相談員が電話をとる。
内容は「今から利用者の受け入れをお願いしたい」とのこだ。
時刻は夕食が終わった。午後18時。
随分と唐突でマナー違反の客だと思ったが、そこは客商売(サービス業)稼働率の低下も相まって緊急の利用者を受け入れることにした。
10分後――
利用者がケアマネジャーの送迎で施設に来館する。
だが、やってきた利用者を見て、僕は絶句した。
年齢は70代後半。顔は赤茶色に汚れていて、髭は生え放題で髪はフケ塗れ、体からは異臭がする上に体調も悪そうだ。体には服の上から見ても赤黒いアザがあり、車椅子に座っているだけでも辛そうだ。
「なんなんだ……コイツは?」
相談員が利用者を連れてきたケアマネと話しをする。
状況を大雑把に説明すると。
『地域で生活保護で暮らす男性の老人。自立で生活していたが、一昨日、自転車走行中にバランスを崩し倒れ鎖骨を強く強打。お金がないから病院にも行かずアパートにて療養していたが、立ち上がることもできず、痛みで食事を自力で摂取することもままならない。近隣住民が深夜、利用者の呻き声を聞きつけ通報。押し付けられた。地域包括のケアマネージャーが施設に連れてきた』というわけだ。
相談員とケアマネがホールのテーブルで入居の取り決めと契約をおこなう。
相談員 「あの、情報や薬などは?」
ケアマネ 「緊急だったんで確認を取ってねぇス」
相談員 「体調がすごく、悪そうなんですが?」
ケアマネ 「ああ、転けたので骨折して熱が出ちゃったのかな~?○○さん大丈夫?寝かした方が良いかもですね?」
相談員「……病院とか、受診されてないんですか?」
ケアマネ「保険証とかが見つからなかったんで、受診してねス」
「なんだこれは?」
いくらなんでも、あんまりだ。
施設を保健所かなにかと勘違いしているのではないだろうか?僕は相談員とケアマネの会話を横で聞きながら利用者のバイタルチェックとボディチェックを行っていた。肩はmm単位動かしても痛いそうだ。
「(うん、折れてるね)」
僕は医者でも、看護師でもないが即座に判断することはできた。(後日、病院受診にて、鎖骨骨折と診断されました)
さて、バイタルは『BP180/120 P200 KT38.4』
うわぁ……高っ!!
明らかに異常な数値が出たので救急車を呼んで、病院受診させた方が良いと進言したのだが、今日は病院が閉まっているし、もうしばらく様子を見てからにしてほしいとケアマネの判断する。
入居に障りがあると面倒くさいと思ったのだろう。相談員も便乗する。
僕 「あの、一応、聞きたいんですがどれくらい病状が悪化したら、救急車を呼んで良いでしょうか?」
ケアマネ「そちらにお任せします」
僕「(今だよ!今!!)」
内心、僕はそう叫んでいたが、僕もプロだ。口には出さない。
僕「夜間、緊急搬送時、連絡は着きますか?」
ケアマネ「寝てなければ」
「……まじかよコイツ」
衝撃展開に言葉を失う僕。
ケアマネは書類をまとめて立ちあがる。
「それじゃ、後のこと宜しくお願いします!」
そそくさと退館するケアマネージャー。
まるで捨て犬のように放置された利用者。
『ありがとうございました』とケアマネを見送り一緒にエレベーターで玄関まで下りる相談員。
利用者とホールに取り残された僕。
利用者が痛みに苦しそうに泣きそうな目でこちらを見てる。
「これは、寝かせたあと、ベッドを挙上させてから、アイスノンを当てて水分補給。朝まで徹夜で看病だな」
冷静に今日の夜勤展開を分析する。
ところで、誰が、この人の面倒を見るんだっけ?
あっ、僕か。
では、またね。
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