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ギグエコノミーは先進国と途上国とじゃ捉え方が変わるけどダイジョブそ?
期末のエッセイでギグエコノミーについて書こうかなと思ってるんですよねという話を教官にしたら、タイトルの通りのことを言われ「その心は?」と問うた返答になるほどなと納得してしまい、良い問い(リサーチクエスチョン)を描けそうになかったのでやめた。全然大丈夫ではなかった。
けれど、その思考過程をここに置いておこうと思う。いつか役に立つ気がするから。
ギグエコノミーとは
まず、そもそもギグエコノミーとはなんぞやという話を。直訳すると単発仕事経済。ネットのプラットフォームから単発の仕事を請け負う。ウーバーイーツの配達員とか、プロジェクト単位とか、成果単位で働くクラウドワーカーとか。フリーランス経済と言い換えてもいいかもしれない。要するに、非正規の不定期雇用のこと(この定義で言うと、2年間の契約で協力隊に行っていたぼくもギグワーカー)。
少し前に2028年にはアメリカの労働者の半分がギグワーカー(フリーランス)になるとか、中国のギグワーカーの数が2億人超えました的なニュースがあったし、日本だろうがイギリスだろうが、途上国だろうがヨーロッパだろうが、ウーバーイーツ的なサービスの配達員がせっせと自転車やバイクで配達をしている。
ギグエコノミーへの疑問と期待
これは世界的なトレンドなのだろうが、割に合うのかという疑問がぼくにはある。だって時給ではなく成果給だから。ウーバーイーツの配達員とかなら、時給でお金稼げるバイトの方が楽なのでは?と思ってしまう。クラウドワーカーも例えばライターの仕事などの初心者向けの仕事は今の相場は知らないけれど6~7年前は1記事100円とかで、時給100円ない内職の仕事だったと記憶している。めちゃくちゃ稼げる人は稼げるだろうけれど、その「稼げる」はみんなに保証されてませんよねと思う。
企業側にとってはコストカットの意味合いが大きく、必要なときに必要なだけ人を雇うを突き詰めた結果だと言える。ジャストインタイム方式であり、労働者の方も必要な時に必要なだけ働きたいとか、能力とか成果で評価してほしい、遊休資産活用したい(シェアリングエコノミー)などのニーズがマッチしたんだろう。(以下、参考図書)
最近、UNIDO(国連工業開発機関)の発表した Industrial Development Report 2022 に少し目を通した。
コロナ禍後の世界の工業化の予測というかコロナで各セクターがどれくらいダメージ受けたかとか、気候変動が話題の昨今での工業化の是非、各セクターの今後の展望みたいなことが書いてある。
コロナ禍でDXが全体的に進んだわけだけど、アンケートベースではあるものの過半数の会社がパンデミックが終わっても店舗や工場から人を減らす自動化やDXを推進すると答えている。
以前書いた、
マッキンゼーだかなんだかのレポートで、今後10年ほどでアジアで2800万人の雇用が製造業から失われる可能性があり、それだけ失っても2018年レベルの生産性を達成できるのだそうだ(うろ覚え)。
これはつまり、これまで雇用の受け皿として君臨してきた製造業がもはやあてにできない
に通ずるものがある。
その現状というか、現実的な選択肢が今のところギグエコノミーなのだろうなと思う。
で、以前東南アジアのデジタル化について調べていたときに東南アジアのギグエコノミーも少しかじっていて、日本でフリーランスのウェブライターが話題になったころ、途上国(主に英語圏)でも似たようなトレンドがあったことを知った。
似たようなトレンドというか、まったく同じと言ってもいいかもしれない。要するに、オウンドメディアのSEO対策記事の外注先が途上国だったわけだ。日本でオウンドメディアという言葉を聞かなくなったように、トレンドは動画に移り、今は動画編集の代行の需要があるのではと思うけれど、動画編集なんて高スペックなPCが求められるわけで参入障壁高い。途上国の人でそれできる人ってどれくらいいるよとも思うし、このトレンドもいつまで続くかわからない。
高い手数料払ってわざわざ冷めた料理配達してもらう需要がいつまであるのかも疑問はある。もうみんなレストラン直接行った方が安上がりだし、出来立てでおいしよねとなるんじゃないかとも思う。(ホームパーティー文化のある国とか、東南アジアの外食文化には馴染むのかもしれないがそれでもコロナ禍のピーク時より落ちるのではないかと思っている。つまり、総需要に対して配達員数過剰になって稼げなくなるのでは?と)※インドネシアのGojekなどはメール便などの配達も受けようになっており、ヤマトや佐川がギグワーカー化したと考えてもいいかもしれない。
というわけで、このギグエコノミーのトレンドは途上国の労働者にとっていいことなのか、以前と比べて稼げるようになったのかという疑問がありエッセイを書こうと思ったわけだ。
だって、途上国でギグエコノミーに従事する人たちって、たぶん以前のバイクタクシーの人だったりするわけじゃない。それがスマホ持って、何ならバイクや車買ってギグワーカーやってる(プラットフォーマーによってはお金を貸してる)。つまり、借金して参入している人もいるわけだ。投下資本回収できてるor見込みあるのかね、自転車操業なんじゃないのかねという斜に構えた視点があった。
先進国におけるギグエコノミー
先進国におけるギグエコノミーは問題として語られることが多い。それは優秀なごくごく一部の人を除いて待遇悪化にほかならないから。最初の方に述べたようにコストカットの意味合いが大きいから。
例えば、ぼくの身近な例でいうと、イギリスの大学はほぼ毎年ストライキで1年の内、何週間か授業がない期間がある。21年-22年は今のところ合計3-4週間あった。これは何に対してのストライキかというと、リサーチャーとか研究員の待遇悪化に対して。年金が削られるだったかな。ない袖は振れぬので仕方ないと思ってしまいがちなのだけど、これを許してしまっているのは労働組合の力が弱くなってしまっているからだという話がある。
1年や2年の有期雇用契約が一般化した結果、組合に入るインセンティブがなくなりつつあり、結果として雇う側と雇われる側として対等な交渉ができなくなっているのではないか、雇う大学側のいいようにやられているのではないかというわけだ。
そのほか、正社員として雇うと、保険料やなんだの従業員の給料以外の負担もある。業務委託ならプロジェクト単位などの短期で給料以外の負担がない。仮に正社員の基本給の30%の保険料と会社が負担していたとして、それを業務委託に切り替えると、正社員の基本給のプラス20%を支払って優秀な人を雇ってもまだコストカットされていることになる。
開発の文脈でいうと、先進国におけるギグエコノミーとはフォーマルセクターのセミフォーマル化が起こっているのではないかというわけだ。
途上国におけるギグエコノミー
先進国の状況が上記の通りなので、途上国だとへたすりゃもっと搾取的なんじゃないかと思って、今後、途上国の雇用に取り組むなら現状を知っておくべきだと思ったのだけど、タイトルの通り状況は異なる。
そもそも途上国の経済というのはインフォーマルセクターの割合が大きいのだ。インフォーマルセクターとはなにかというと、行商やごみ拾い、流しのタクシーなど国家の統計や記録に残らない経済活動をしている人たちのことであり、簡単にいうと税金を払っていない人たちであり、貧しい人とほぼ同義。
彼らの仕事というのは休みもなければ労働時間も長いし、保険や有給なんて概念は当然ないし低賃金極めて不安定。例えば、ウガンダは労働者の約87%がインフォーマルセクターで働いている。さらにそのうちの約80%が貧困を脱せていない。彼らの教育水準が低いことが主因だと言われている。そういった環境のところにギグエコノミーが入ってきた。ウガンダ版UberのSafebodaが入ってきた。
バイクタクシーの仕事の7割はただ待つことだと聞いたことがある。それがSafebodaのアプリのマッチングにより効率化した。結果、生産性が上がり収入が上がる。同社の提供する事前研修やOJTにより仕事のスキルを磨けているようでもある。さらに提携のモバイルマネーアプリでマネーリテラシーも向上しているようだ。
もちろん、これはごくごく一部のことなんだろうと思う。けれど、搾取か恩恵か2軸でみると、少なくとも途上国においては恩恵の方が勝っているようにみえる。以前がひどすぎたから。
さらにユーザー情報がアプリに記録されるので、どこまで会社がデータを政府に出すかの議論はあるが、インフォーマルセクターがセミフォーマル化していると言える。インフォーマルであれば、どんなニーズがあるかが把握しにくいので行政としては支援をしにくい。それがセミフォーマル化することでいくらかは手を差し伸べやすくなる。
途上国におけるギグエコノミー、あるいはデジタル経済は教育レベルが低かろうが間接的に労働者の働く環境を改善し、彼らの能力の向上を助けることができるのではとポジティブな意味合いが大きい。
まとめ
またしてもクソ長いnoteを書いてしまった。カリブにいたころは1,500文字くらいに抑えてポップな文章を書くことを意識していたのに。
このころなんて、お前はカミュとポール・オースター読んだ後に書いたのかと思うほどの詩的さがある。
話を戻すと、教官に指摘を受けたのは「途上国のギグエコノミーってインフォーマルからのセミフォーマルの意味合いでポジティブに語られることが多いんだけど大丈夫か」だった。いろいろ察してぼくはそのトピックをエッセイにするのをやめた。
思えば、以前ぼくがいろいろ手伝ってたタイ系日本人のシングルマザーもバンコクではウーバーイーツの配達員的なことをしていたと言っていた。大卒で職歴として貿易事務などのホワイトカラーの仕事もあるのに。景気や需要がどの程度なのかは知らないけれど、普通に生活できるくらいには稼げているようだった(税金は払ってなかったけど。タイの税制がどんなのか知らないけれど)。
おもしろいのは、その人は日本にすぐ自転車手に入れてウーバーイーツの配達員として働き始めてたこと。日本国籍だから全然問題ないんだけれど、タイ生まれタイ育ち、日本語怪しい、土地勘なしでもGoogleマップと自転車があれば稼げてしまうそのスキルの共通性というのか、ポータブルスキルというのか、なんか新しいというか、これがギグエコノミーなのかと。
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