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あれは泥棒…なのか?それはOKの範疇なのか?
帰宅中、まさに自宅の手前の土地のフェンスをよじ登って越えようとする男を見た。
みなりはお世辞にも良いとは言えない。いや、街中で見ればそんなふうな人もいると流せたかもしれないけれど、ぼくの目にはまぁ小汚く映った。瞬時に泥棒認定してしまっていたからかもしれない。
男は、フェンスと塀を越えたあと、木の陰に腰を下ろした。隠れた、といった方が適切かもしれない。
怪しい。
あろうことか、ぼくの家の隣の土地の木だったものだから気が気でない。ぼくの部屋は3階だけれど、男の潜む木は斜面の高い方に位置していて、道の裏側になっている。人目に付きにくい。その土地と我が家を隔てるのは心許ないひしゃげたフェンスのみ。越えようと思えば簡単に越えられてしまう。
そして、ぼくは3階だからという理由で換気のために24時間窓は開けている。格子がついてはいるけれど細い人なら通れてしまう。
そして、実はその数週間前、その同じ隣の土地で男が追いかけれて逃げていくのを見ていた。追いかけてきた方は棒を持っていたし、逃げる方は土地の境界の塀を越えて走り去ったのだから鬼ごっこではないことは確かだ。
そのことが脳裏をよぎった。気が気ではない。
ぼくは早足で坂道を上り階段を駆け上がり自宅に飛び込んだ。
部屋が荒れている…!
しまった、日ごろから整理整頓すべきだった。これじゃ空き巣か平常運転なのか見分けがつかない。
一応、ベッドの下やシャワールームなどに人がいないかどうか確認してから、窓からそっと男が潜んでいると思われる木をカーテン越しに覗いた。
距離にして10mにも満たない。
男は木の幹の裏側にいるのかこちらからはその姿を見ることができない。おそらく、向こうもぼくが帰宅する様子を見たのだろう。警戒しているのかもしれない。
持久戦だ。
すぐ帰らないということは偵察なのか?だとすれば、前回の追いかけられていたのと同様の男であれば、少なくとも2回は偵察に来ていることになる。
最近来た東洋人の部屋は常に窓が開いていると情報が周ったのかもしれない。もう生活リズムは把握されているだろう。
こうなってしまった以上、階下に住むマルコムの動向次第になるかもしれない。だって日中ぼくは仕事でいないのだから。
まいったな。どうしよう。
思い切って話しかけてみるか、アホなふりして。
いやぁ、武器持ってたら怖いな。
どうしよう。
とりあえず、滝のように流れる汗を拭きとり、いったんトイレに行った。トイレの窓からも様子を見ることができる。
しばらくすると男は木陰から姿を現した。
そして木の実を取って、器用に着ているTシャツを袋のようにしてため込み始めた。
どうやら空き巣ではなく、果物を取りに来ただけのようだ。しかし家主には見えない。
Tシャツを目一杯たくし上げるほど果物をため込んだ後、男は静かに去っていった。
・・・・・・・
後に、この国では伝統的に、特に田舎の方では庭にマンゴー、プラムやチェリーなどの果物を木を植えるのだと知った。
ウィリアムの実家には立派なマンゴーの木が2、3本ほどにプラムやチェリー、アボガドの木なんかもあった。どの木も立派に実をつけていたけれど、当人たちには捌ききれないのか、ずいぶんな数の実が地面に落ちてしまっていた。
ある種のベーシックインカムのようなもののように見えた。お金がなくても、それだけあればしばらくは生きていける。果実をたくさんつけるまでは時間が少々かかるけれど良い投資のように思える。
それにいざとなったら、それらを街で売れば1袋200円くらいで売れる。
余ってるから好きなだけ持って行っていいよとウィリアムが言った時、なんでも金に換えようとするぼくは貧しい心なのかもしれないと思った。余っているから他の人に分け与える。
そういう力学というか思想、文化が働いているのだとしたら、あの小汚い男も別に悪いことをしてるわけではないのだろうか。
どうだろう。
ぼくにはあれは完全にアウトに映ったんだけれど、それは身なりから判断した偏見が多分に含まれているもかもしれない。フェンスを越えたのもショートカットだったのかもしれない。
真相はわからない。
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