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どうして君たちはいつもロマンスの中にいるの?
ー Yukiは彼女がいるの?
あるときファン(台湾人)が唐突にぼくに尋ねた。
それは ”この国に” という意味?とぼくは思わず聞き返した。どれほどの深みがその質問にあるのかわからなかったのだ。
ー ははは!いや、どっちでもいいよ。ほら、Kには奥さんがいて、AとTにもそれぞれ恋人がいるだろ?君はどうなのかなと思って
しまった、シンプルな質問だったようだ。
いるよ、訓練中に知り合った子がね、と答えた。すると間髪入れずに
ー どうしてみんなそうなんだ?ほら、ぼくは10年前にもこの国にボランティアで来たと言ったろ?その時いた日本人も訓練中に知り合った恋人がいると言っていた。Aだって訓練中に知り合った人が相手だろ?どうして君たちはいつも恋をしてるんだ?
恋人のいない若い男女が出会う。70日間しょっちゅう顔を合わし、いっしょに悩む。恋に落ちるのはそんなに不思議なことなんだろうか。
ファンの所属する台湾のJICA、ICDF(International cooperation and development Fund)も今は2週間ほどになってしまったけれど、以前は40日間のトレーニングを提供していた。40日もいっしょに生活していればいくらかはありそうなものだけれど、そんなことはなかったらしい。人数がそれほど多くなかったからかもしれない。
駒ヶ根マジック、二本松イリュージョン…
訓練が終わり、それぞれの派遣先へ出発してしまうと二人の距離と気持ちが遠く離れてしまい早晩破局を迎えてしまうことを揶揄した言葉だ。
日本国内にしたって遠距離は基本的に上手くいかない。
それをぼくら協力隊の場合は距離に加え時差、不安定な通信環境という計3つの足かせをはめて愛を育まなくてはならないのだから難度は高い。
おまけに、互いに言葉の不自由な見知らぬ土地でたった一人というストレスの溜まる環境だ。同じ環境で似た悩みをかかえ、ともすれば多くの時間を過ごす現地の先輩隊員、後輩隊員と恋に落ちることも多い(そのケースが圧倒的に上手くいってるケースが多い印象を受ける)。
そんな負の面は訓練前からわかっていたことだし、訓練中も嫌というほど聞こえてくる。
それでも恋に落ちる。
なぜだろう。
おそらくファンが知りたいのはそこだろう。
なぜ続きっこないことが明白なのにそこに飛び込めるんだ、と。
逆になぜ君たち台湾人は恋をしないんだ、そんなに特別なことか、報われないと恋はしないのか、絶対報われると思ってることをやるのって退屈じゃないかと思ったけれど、そのあたり台湾人は恋愛に億劫なのかもしれない。(台湾の出生率は日本より低いし)仮に、別れたとしても素敵な思い出はずっと色褪せずとっておけると思うのだけど。
そう、ぼくが言いたかったのもそこで、別に特別なことをやってる意識はない。
あまりにもぼくにとっては普通のことだったから、冒頭の彼の質問「恋人はいるの?」というのが、この国に(も)恋人がいるのか?というニュアンスに聞こえてしまったわけだ。
高城剛が昔、「女子高生にとって最大のキラーコンテンツは彼氏からのメールである」っていう名言を残したけれど、それくらい夢中になるものだし、心乱されるし、感情が高まるおもしろい、ともすれば人生かかってるものってなかなかないから、か細くても可能性があるなら飛び込むでしょって思うんだけれど、ってファンに言おうとしたんだけれど、なんかいろいろ考えている内にめんどくさくなってしまって、
ぼくモテるからわかんない
って「太陽が眩しかったから」と答えた異邦人のムルソーばりにわけわからんことを言って、ふざけた奴だという印象だけ残してしまった。
だって日本人は〇〇なんだよ、って言えるほど知らないし、確固たる仮説も持ち合わせていないんだもの。
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