「コロナ前水準」って、いつ?
昨日(9日)の日経朝刊に、これまた興味深い記事が出てました。日本経済研究センターが集計した民間予測平均によると、日本の実質GDPが、年内にもコロナ前水準に回復するというのです。
民間エコノミスト37人の予測を集計した7月のESPフォーキャスト調査では、実質GDP成長率(前期比年率)は4~6月期に0.19%と横ばいにとどまる。7~9月期は4.90%と高まり、10~12月期も4.58%と高成長を維持する。
結果、10~12月期の実質GDPは実額(年率換算)で549兆円となり、コロナ前の水準(2019年10~12月期の547兆円)を上回るまでに回復すると見立てた。
確かに、日本でコロナ禍の影響が出始めたのは2020年1~3月期でした。GDPは四半期単位で公表されるので、記事が書いているようにコロナ前は2019年10~12月期ということなのでしょう。日本経済研究センターのホームページで一般向けに公開されている成長率予測を用いて、以下のように再現すると、2021年10~12月期に2019年10~12月期(青の点線)を上回ります。
しかし、忘れてはいけないのは、2019年10~12月期の実質GDPは、10月の消費税率引き上げによる消費の反動減などで、2019年7~9月期から年率1.9%も減少していたという事実である。コロナの影響はないものの、消費増税で落ち込んでおり、コロナ前の水準にふさわしくないのではないでしょうか?
この記事が引用している政府の年央試算では、「GDPは2021年中に感染拡大前の水準を回復することが見込まれる」と書いているので、ここから記者さんは2019年10~12月期をコロナ前としたのかもしれません。ただ、このコロナ前の水準がどういうものだったのかということに、思いを巡らしていただいてから記事を書かれても良かったのではないでしょうか?
一方で、2019年7~9月期の実質GDPには駆け込み消費の要素も含まれているため、ハードルが高そうです。そこで、2019年平均(1~3月期から10~12月期までの4四半期平均)をコロナ前水準とすると赤い点線になります。民間予測に基づくと、この水準を超えるのは2022年4~6月期になります。また、政府見通しは年度単位の成長率を予測していることを考慮して、若干コロナの影響が入りますが、2019年度平均(2019年4~6月期から2020年1~3月期までに4四半期平均)をコロナ前水準としても、超えるのは2022年1~3月期になります。
ちなみに、2022年に入ってからコロナ前水準を回復するという結果は、今年3月に開催した、下記の中長期経済見通し研究会で比較的多くのエコノミストの方の見通しでした(主要なシンクタンクエコノミストの方に参集いただいたので当然といえば当然ですが(笑))。ただ、ワクチン接種が順調に進むことが前提になっていたため、その点ではリスクが残るかもしれませんね…。今後、冒頭のESPフォーキャスト集計の予測値が下方修正されていかないことを祈りたいです。