表現方法が変わった日銀の経済見通し
日本銀行は本日開いた金融政策決定会合において、いわゆる展望レポートをまとめて公表しました。本日の日経夕刊は、実質GDP成長率の見通しをマイナス3~5%としていると報じています。
この記事を見て、「おや?」と思いませんでしたか? ほぼ3ヵ月前の1月22日の記事では、「日銀、成長率予測を0.9%に上げ」という見出しで、ピンポイントの予測値が報じられていたためです。今回から日銀が展望レポートにおける経済見通しの打ち出し方を変更したのです。
そもそも、展望レポートは、金融政策決定会合に参加する政策委員の見通しを示しており、日銀スタッフの見通しではありません(影響は受けているかもしれませんが(笑))。前回までは以下のように示していました。
各政策委員が最も蓋然性の高いと考える見通しの数値について、最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示した。
1月時点の見通しは新聞では0.9%と書かれていますが、展望レポートの資料を見ると、+0.8~+1.1と書かれ、中央値が+0.9となっています。つまり、最も楽観な見通しをした政策委員と最も悲観な見通しをした政策委員を除いて、それ以外の人は+0.8~+1.1の間の見通しをしたということになります。また、中央値が+0.9というのは、楽観的な人の見通しから順番に並べて、ちょうど真ん中の人の見通しが+0.9だったわけです。
それでは、今回からどうなったか。まずは公表資料の文章を以下に示します。
今回、先行きの不確実性が従来以上に大きいことに鑑み、各政策委員は最大 1.0%ポイントのレンジの範囲内で見通し(上限値・下限値の2つの値)を作成することとした。「大勢見通し」は、9名の政策委員の見通し値(上限値・下限値)のうち上から2個、下から2個、計4個の値を除いて、幅で示したものである(政策委員が単一の値で見通しを作成した場合には、当該値を2個と数える)。
ややこしいですね(汗)。
まず、各政策委員は1人が2つずつ予測を出してます。例えば、上限と下限の差は最大1%ポイントとしているので、例えば、マイナス3%が上限、マイナス4%が下限という予測が考えられます。政策委員は9人ですから、この結果、18個の予測値ができることになります。この18個を楽観から並べて、上から2個の予測値、下から2個の予測値を除いたら、マイナス3%からマイナス5%になったということです。
なぜ、このようなややこしい見通しの示し方をするのでしょうか?「2020年度は*%」と言ってくれた方が分かりやすいですよね。ただし、この時、私たちは無意識に「*%」の近辺の値が実現する可能性が高いと考えています。現在のような先行きが見えにくい時は、その考え方が全くと言っていいほど、当てはまらないのです。
それを如実に示してくれているのが、民間調査機関の経済予測を集計しているESPフォーキャスト調査です。4月集計において、同調査は2020年度の成長率見通しの平均をマイナス3.09%としています。これは各フォーキャスター(予測者)が1つずつ出した予測値を平均したものです。
一方、下記の資料の4ページの図は、各フォーキャスターが、成長率などについてどの程度実現しそうかという確率を示しています。例えば、ある予測者が「マイナス3~マイナス3.5%」がほぼ実現すると思えば、そこに100%と記入します。逆に、かなり不確実性が高いと思えば、「マイナス3%~マイナス3.5%」に30%、「マイナス3.5%~4%」に30%、「マイナス4%~4.5%」に20%、「マイナス4.5%~5%」に20%という風に、合計が100%になるように記入することになります(もっと細かく記入することも可能です)。個々の予測者の回答を平均したものが4ページの図なのです。
以上を踏まえて、4ページの図を見ると、マイナス3.09%の近辺である「マイナス2.5~マイナス3%」の青い棒グラフには12.5、「マイナス3~マイナス3.5%」の青い棒グラフには13.5という数値が書かれています。マイナス3.09%は見通し平均ですが、その近辺で見通しが実現する確率は26%(=12.5+13.5)に過ぎないのです。これは、黄色い折れ線グラフ(2020年1月)において、当時の見通し平均0.51%の近辺、「0~0.5%」「0.5~1%」の実現確率が合わせて71.6%であったことと対照的です。現在の状況ではピンポイント予測は当てにならないのです。
ちなみに、日本銀行の今回の見通しである「マイナス3%~5%」をこの図に当てはめると、その範囲に収まる確率は41.5%(=13.5+10.3+10+7.5)です。ピンポイント見通しよりは実現確率が高いですが、それより悪化する確率も6.5%(=3.9+1.3+0.8+0.5∔0.5)ありそうです。
なお、日銀の政策委員の中にはマイナス5%より悪い予測をしている人がいます(悲観的な見通しを2個切っているので)が、最も悲観的な見通しはどうやらマイナス6%近辺のようです。下記のリンクの公表資料の7頁の図を見ると、薄紫の棒グラフが2020年にはマイナス6%近くまで伸びているためです。
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2004a.pdf
経済見通しは、景気後退期には下に外れる、すなわち、予測値より実績値が下回る、傾向があります。2020年度の経済成長率は、マイナス3~5%の範囲に収まらず、それより悪くなることを覚悟する必要があるかもしれません。。。