2024年7~9月期の実質GDPはマイナス成長か~7、8月の鉱工業生産から考える

 本日(9/30)、2024年8月の鉱工業生産指数の速報値が公表されました。日経電子版で報じられているように2ヵ月ぶりの低下となりましたが、それ以上に注目されているのが、これで2024年7~9月期の実質GDP成長率(前期比)がマイナスになる可能性が高まったとされる点です。日経電子版のTHINK欄で永浜氏がコメントされているほか、他にもマイナスの可能性が高まったとみるエコノミストもいるようです。
 本稿では、いつものように前年同月比(前年同期比)に注目しながら、GDPマイナス成長の可能性について考えてみたいと思います。


鉱工業生産の7~8月平均は前年同期比0.8%低下

 前年同月比でみると、2024年8月の生産は3.3%低下。前期比同様に2ヵ月ぶりの低下となっています。主要業種別にみても電子部品・デバイス工業を除いて全面的なマイナスです(化学工業と食料品・たばこ工業は確報時に判明しますが)。7~8月平均でみると、鉱工業生産は前年同期比0.8%低下。このまま推移すると、2023年7~9月期以来の5四半期連続の前年同期比マイナスの可能性も出てきました。

出荷-在庫バランスもさえない動き

 一方、出荷-在庫バランスはマイナス4.4ポイント(出荷が6.4%低下、在庫が2.0%低下)。業種別に出荷をみると、前年同月比でプラスなのは電子部品・デバイスのみ(3.7%上昇)となっています。出荷-在庫バランスがプラスの業種は、7月は11まで増えましたが、8月は4まで減っています(化学工業と食料品・たばこ工業は確報時に判明するのでカウントしていませんが)。
 鉱工業全体の7~8月平均ではプラス0.2ポイント(出荷が2.04%低下、在庫が2.26%低下)とわずかなプラスになっていますが、微妙なところ。生産回復の勢いは今のところ感じられません(期待していたんですが(汗))。

微妙な、鉱工業生産と実質GDPの関係

 さて、こうした鉱工業生産の状況から実質GDP成長率はどう見通せるのでしょうか?現時点の季節調整済みの実績値を踏まえると、2024年7~9月期の実質GDPが前期比横ばいになるには、前年同期比で0.154%増加する必要があります(季節調整値で前年同期比を計算しているため、原系列で算出した前年同期比とは微妙にずれますが)。このため、2024年7~9月期の実質GDPが前年同期比でマイナスになると、前期比でもマイナスになる公算が大きくなります。
 それを踏まえて、以下の図を見てください。鉱工業生産と実質GDPの前年同期比を比べたものです。なお、GDPに占める「鉱業+製造業」のウエイトが2割程度であることを踏まえ、実質GDPの目盛り(右軸)は生産の5分の1にしています。
 リーマン・ショックがあった2008~2010年あたりは両者は同じように動いていましたが、近年はプラスマイナスの符号が異なることも珍しくありません。2024年1~3月、4~6月はともにマイナスですが、2023年は鉱工業生産の前年同期比がマイナスでも実質GDPの前年同期比がプラスの四半期が珍しくなかったことがわかります。

原因は産出額と付加価値額の違い?

 こうした動きの違いの理由は、第1にGDPに占める「鉱業+製造業」のウエイトの変化が考えられます。コロナ禍の上記のグラフをみると、生産より実質GDPの落ち込みが大きいですが、これは緊急事態宣言による経済活動の制限がサービス業に大きく影響したためと推察されます。
 第2は、生産指数は産出額を示しているのに対し、GDPは付加価値(=産出-中間投入)を示しているという違いです。同じ産出額の伸びでも、中間投入の比率が高い業種がけん引していれば、付加価値の伸びは低めになる可能性があります。
 内閣府の「生産側系列の四半期速報」(生産QNA)で得られる「鉱業+製造業」の実質付加価値(現時点では2024年1~3月期までしか判明していません)と生産の前年同期比を比べたものです。実質GDPと生産の動きにズレがあった2023年は、生産と「鉱業+製造業」の実質付加価値の動きにズレが生じています。
 この原因が何なのかは判然としませんが、2023年のGDPは今年末に年次推計が行われ、遡及改定される可能性もあります。ウオッチを続けたいと思います。

2024暦年のマイナス成長の可能性高まる?

 以上見てきたように、7~8月の生産指数の動きをみると、7~9月期も前年同期比でマイナスになる恐れがあるようです。また、実質GDPとの関係は必ずしも安定的ではないものの、前期比、前年同期比ともに実質GDPが減少する可能性も少なくなさそうです。
 こうなると、9月25日の日経電子版で報じられた、「日本はマイナス成長」というOECD見通しの実現可能性も高まりそうです。というのも、現時点での季節調整済みの実績値を踏まえると、2024年7~9月、10~12月とゼロ成長が続いた場合、2024暦年の実質GDP成長率はマイナス0.4%になるためです。
 新聞報道によると、自民党の石破新総裁は衆議院を近々解散し、10月27日に投開票で選挙を行うとか。なんか、事前に言っていたことと違う気がするんですけど、このような経済状況で政治の空白を作っても大丈夫なんでしょうか? 

#日経COMEMO #NIKKEI

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